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「あなたは倒せるというのですか? 虐殺王ハヤテを」


 ムーニャオ姫は信じられないといった表情を唐突に見せるも、目はまだ死んでいた。


「やれないこともないだろうよ」


「神の雷を天から降らせ、紅蓮の炎より激しく地を焼き尽くす炎を使い、人だけを殺し続けるドールを操り、如何なる攻撃をも防ぐ盾を持つ、あの残虐王ハヤテを」


「神の雷を天から降らせって奴は、さっきぶっ壊しておいた。だからもう神の雷は落ちてはこない。それ以外だと……ドールが何か分からんが俺の敵じゃないだろうし、盾はどうだろうな? 俺の攻撃力なら貫けそうなものだが」


「その言葉は真実なのですか? それとも、偽りなのですか?」


 俺の正体を測りかねているようで、死んだ魚のような目で探るように見つめてくる。


「この男、実力は折り紙付きなのである。こやつなら、ハヤテを倒せるかもしれぬのである」


 補足するようにワーキュレイが口を挟んできた。


「大賢者ワーキュレイ? あなたが何故?」


 こんな場所で会えるとは思っていなかったように、ムーニャオ姫が驚きの表情でワーキュレイをじっと見つめた。


 こうも驚かれているという事は有名人なのだろうか、このちびっ子大賢者は。


 わずかだが、瞳に光が宿ったように見えた。


「新しい転生戦士がいかようなる者か興味があってな」


「……転生……戦士?」


 今度は、俺の事を怪訝な面持ちで見やる。


 良い思いではないのだろうな、転生戦士達に対して。


 今この瞬間、あいつらと同じに見られたのかもしれない。


「ワケあって、この世界に転生した男だ。この世界を救えと言われて連れてこられたものの、俺にはその気が全くない」


「あなたも同じように私達を虐げるのですか?」


 一瞬だけ宿った光がまた闇に呑まれ、どんよりとした闇に魅入られた瞳に戻っていた。


「まだ何をするかは決めてはいない。あっ、前言撤回だ。ハヤテだけはぶっ飛ばす。それ以外の事については、現時点ではノープランだ」


「あの方々と同じ道を歩むかもしれない……という事ですね」


 不意にアーリが俺の前に出てきて、ムーニャオ姫と向き合った。


「こいつはハヤテみたいなクズにはならない。私が保証する」


 ムーニャオ姫がアーリに探るような視線を送る。


 自分の記憶と人物とを結びつけようとしている、そんな目であった。


「……私か? 私は第四魔王アーリ・アーバンスタインと呼ばれた女だ。今は、こいつに隷属させられてしまっている」


 俺の時と違って、態度が殊勝だ。


 どういうことだ?


「……大賢者に、第四魔王、と。今までの転生戦士とは異なるという事ですね。私はあなたの事をまだ信用しません。ですが、ハヤテとの対応如何でその考えを変えるかもしれません」


 アーリが俺の方を振り返って、ニヤリと不敵に笑うなり、さっと身を引いて後ろへと下がっていった。


 助け船を出したと思っていいのか?


 なんでそんな事をしたのかは分からないが、ちょっとだけ感謝しておこうか。


「俺を信用するとかそんな事はどうでもいい。目の前で死にたいとか言っている人がいるのに手を差し伸べないのは、人として下劣だと感じただけだ」


 元いた世界で、俺に手を差し伸べてくれる人が一人でもいたら、違った世界が見えていたかもしれない。


 だから俺は勢いから手を差し伸べたというべきか、『俺がこの拳であのハヤテとか言う奴をぶん殴る。その時にまだ死にたいと思っていたのならば、同じ事を言えばいい。その時は考えてやってもいい』なんて何も考えずに言葉にしてしまったのだ。


「……さて、と。ハヤテの元へと急ごうか」


 俺達がかわしていた会話はたぶんハヤテには筒抜けだろう。


 さっきの通信機器が生きていると想定してはいる。


 それでも俺達を迎え入れるのであれば、それだけ自信というものがあるのだろう、己の力というべきか、保有している最新兵器に。


 どんなのが用意されていようとも、俺ならやれるだろう。


 そう信じておこうかな。


 変なスペックばかり与えてくれた創造主を一応は……信頼しておこう。


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