05




 元の世界で、俺は冤罪により虐げられる存在となっていた。


 今まで努力して得たスペックをすべてはぎ取られ、俺はある意味裸になっていた。


 裸の王様ならぬ、裸の貧民だ。


 そんな俺を周囲はよってたかってなぶり者にした。


 言葉や視線や態度によって……。


 前の世界の俺をいたぶっていたとある人物とどこかで似通っているように思えて、心の奥底から何かもやもやとした憎悪とは違う気持ちが起こり始めていた。


『一応説明しておこうかな』


 いきなり俺の脳内に創造主の無邪気な声が届いた。


 何の説明をしようっていうんだ?


『十二人の戦士を異世界から転生させたのは他の奴らだよ。一人の戦士が一つの魔王軍を滅ぼすよう想定して、十二人も異世界から戦士を転生させたんだ。思考回路が浅はかだよね』


 そこまで魔王軍が勢力を拡大していたって事なのか?


 そんな状況であれば、戦力を上げるためにプロ野球における助っ人外国人のような存在を引き入れるのも納得できる。


『見当違いも甚だしいね。自分たちが消耗することを忌み嫌ったんだ。だから、消耗しても構わない勢力として異世界から戦士を転生させて、魔王軍を攻め滅ぼそうとしたんだ』


 でも、失敗したと?


『うん。彼らは自分勝手だったんだよ。ハヤテが十二戦士を転生させたチャリオン王国を滅ぼし、王国そのものを乗っ取って、殺戮の限りを尽くしていった。ハヤテはこの世界でいくら人を殺しても王であれば罪に問われないと理解して、リョナの趣味全開になっちゃったんだよね、困ったものだね』


 創造主は困ったとは思っていない口ぶりで言う。


『世界を救うのは君に任せるけど、ハヤテだけは始末しておいて欲しいな。他の十一人は害があるのは数人いるけど、他は趣味全開の人だから放っておいてもいいよ。国民総アニメーターだとか言ってアニメーターを育成した上、異世界への扉を開いてアニメを輸出し始めたのもいれば、この世界の食材を集めて究極だとか至高だとかの料理を作り出そうとしている人もいるし、この世界全土に鉄道を開通させようと考えている人もいるんだよね』


 それはアニメーター、グルメ、鉄オタの事か。


 害があるのは誰だろうな?


 ブシドーか? それとも、名前が出ていない奴か?


『それは追々分かることだけどね』


 まずは、ハヤテか。


 しかし、創造主に言われるまま、始末するのは如何なものか。


『ハヤテはね、君が元いた世界で君をなぶっていた人たちと同じなんだよ。自分よりも格下で、叩きやすい奴を見つけて、相手が反撃できない事をいいことにいくらでも叩き続ける……そんなふうな奴だからね、ハヤテは』


 死んだ理由は飛行機の墜落事故らしいから、そんな奴らに俺は殺される事はなかった。


 しかし、この世界ではハヤテのような奴に女子供が虐殺されている。


 元の世界で虐げられる立場にいた俺が、そんな人たちを見捨てて、あるいは、見て見ぬ振りをしていていいものなのだろうか?


 大勢の人たちがハヤテの自慰行為のために殺されるのを知りながらも、声を上げなくてもいいのだろうか?


 いや、それではダメだ。


 良くない、決して良くない。


 それでは、俺を見捨てて行った、あるいは、俺を見て見ぬ振りをしていた奴らと同じ人間に落ちる事を意味するんじゃないか?


 だとしたら、創造主の言いなりになって、ハヤテを討伐するしかないだろう。


 俺は俺を見捨てていった奴らとは違う。


 断じて違うのだから。


『言いなりになりたくないのなら、一度ハヤテと話してみるといいよ。たぶん君の事だから嫌悪感を抱いて、ぶん殴りたくなるはずだからね』


 そこまでクズなのか、ハヤテは?


『会ってみれば分かるよ。本当のクズだよ、ハヤテは。この世界にはいらない人だね、本当に』


 まずは会ってみて、ハヤテの人間性を確認してみるか。


 それで創造主とかワーキュレイが言うことが正しいかどうか判断すればいい。


『健闘を祈るよ。ハヤテくらい君が本気を出せば、十秒もあれば倒せるけどね』


 そこまで弱いのか?


『弱いと言っても、魔王軍を殲滅できるくらいには強いよ。君がつよすぎるだけの話だね』


 さいですか。


 俺が考えなければいけない事は、ハヤテとの話し合いの場をどう作るかだ。


 正面から特攻して行っては、ただ戦うだけで終わってしまい、話し合いなどできそうもない。


 人間性を見定めるには、ハヤテが俺を城塞都市に招いて、そこで相対するってのが一番だろう。


 そういう流れにするためには……。


「まずはあの上空から攻撃してきた兵器を墜としてやろうか」


 俺は空を仰ぎ見る。


 上空に存在しているであろう兵器を目視しようと目を細めてみるも、それらしきものを捉える事ができない。


「姿を見ることができないのをどう墜とすべきか」


 俺はそう呟きながら、脳細胞をフル回転させて策を練り始める。



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