04
「この世界の三分の一の事実を知る者?」
俺は脳内の声に問いかけるようにそう声を出していた。
「最初は独り言の多い奴かと思っていた。どうやらそれは違っていたようだな」
緊張感から解放されたからなのか、抱きついていたアーリがようやく距離を置くように、俺から手を離して、したり顔でそう切り出した。
とはいえ、アーリはまだ俺に抱きしめられたままではある。
「ほぉ……」
「今の呟き、世界の三分の一で全てが繋がった」
アーリはにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「ワーキュレイ・シュトラバスとテレパシーで会話をしていたのだな」
「知っているのならば説明せよ、アーリ」
「説明? この私がか? すると思っているのか? ふんっ、当然……説明する」
やはり抗えなかったようだ。
絶対的な命令は、本人の強固な意志よりも上ということか。
「大賢者ワーキュレイ・シュトラバス、彼女はこの世界にある膨大な知識を受け継いでいる器であり、この世界の散文の一の真実を知る者だ」
「知識を継承している器のようなものなのか? ワーキュレイは」
「違う。器などではあり得ない。何故ならば、ワーキュレイは……」
「器ではないのである。知識の宝物庫である、我が脳は」
脳内ではなく、真正面から女の声がした。
アーリから視線を外して、正面へと顔を向けると、そこには『天女の羽衣』のようなひらひらとした赤やピンクなどの色彩に彩られた衣服を着た少女が立っていた。
俺の元いた世界であれば、小学校に通っていそうな年頃の少女だ。
「大賢者と認められる者は神により認められた者だけである。認められる者はこの世界に唯一無二である。この世界に大賢者は余のみである」
おそらくは、この少女がワーキュレイ・シュトラバスだ。
「大賢者と呼ばれる者が死ぬと、次の大賢者足る人物が産まれる……そんなところか」
器ではないのだとしたら、大賢者が転生し続けているのではないか?
「余は異世界転生十二戦士のようなものではないのである」
なんか、変な単語が飛び出してきたが、なんだ?
異世界転生十二戦士って?
「産まれながらにして大賢者なのだよ。神にそう認められて、その世に生を受ける。それが大賢者だ」
「……分かったような、分かってないような?」
「神に大賢者の素質有りと認められ、知識の宝物庫を与えられ、この世を良き方向性へと導くため、大賢者として生きる事を使命としてこの世に生を受けるのである」
「なるほど、分からん」
神様がいて、大賢者として認めた奴を世に送り出して、世界を良い方向に導く……分かったような、分かっていないような?
それが、この目の前にいる少女ワーキュレイ・シュトラバスなのか。
「アーリ・アーバンスタイン、この男に何も説明してないのであるか?」
ワーキュレイが責めるような目で、ずっと俺の腕の中にいるようなアーリを睨め付けた。
「私は説明しろと言われた事だけを説明しただけだ。私とて魔王だ。隷属させられたとはいえ、誇りを全て捨て去れることはない」
アーリがない胸を張っているかのように自信ありげにそう言う。
だから俺に全てを説明しなかったというのか。
隷属されたとはいえ、アーリの最後の牙城でもあるプライドまでは捨てさせる事はできなかったというのか。それは仕方のないことだ。
「転生十二戦士に瞬殺されたであろう小娘に期待した余が馬鹿であったのである」
「他の世界から猛者を連れてきて、私達を滅ぼそうした者達が何を偉そうに。でも、どいつもこいつも、思惑通りには動いてはくれなかったみたいだけど」
アーリが意味ありげに嘲笑した。
その嘲笑はワーキュレイに向けられたものでなく、もっと他の対象に向けられたようであった。
「……もっともである。異世界より転生させた者達は己の欲求のみに従い行動しているのである。嘆かわしいのである。力ある者が思い通りに使役できると思い込んでいた愚か者ども達がいた事がである」
呆れたようにため息を吐いてから視線をアーリから俺へと戻す。
「転生十二戦士とは異世界より転生してきた十二人の戦士である。いや、戦士ではなかったのである。十二人の利己主義者と言うべきである」
「……ようは、俺みたいに他の世界からこの世界に転生させられた奴らが十二人いた……いや、いるって事でいいのか?」
「正解である。お主は話が早いのである」
「その転生十二戦士ってのは、どんな奴らなんだ?」
「余はあまり知らぬ。十二人を転生させた者達は、彼らによって滅ぼされたので知識が得られなかったのである。ただ、一堂に会した時、数人は相手の事をこのようなあだ名で呼んでいたのである。リョナ、グルメ、アニメーター、鉄オタ、コスプレ、ブシドー、と。他の者達については分からぬのである」
「全員ロクでもなさそうなのが簡単に想像できるんだが」
「その通りである。皆、利己主義である。以前、転生十二戦しが一堂に会し、この世界を救うべきかどうか議論したのである。その時、彼らは言い争いになったのである。それも当然である。自分の主義主張ばかりを繰り返し、終いには『お前がやれ!』『いや、お前がやれ!』の押し付け合いである。議論は平行線を辿り、結局は『この世界を救うのは面倒臭い』という結論に十二人の転生戦士全員が至ったのである。その後、全員が集まることはなかったのである」
「……なるほどな」
その時に相手を馬鹿にしたりする意味で、あだ名で呼んだってところか。
つまり、あだ名がない奴ってのは、どんな奴なのか分かってないってところかな。
「リョナとあだ名を付けられた者は、先ほどの城塞都市チャリオンを統べるハヤテ・バーレンシュタインだ。さらってきた女子供に思いつく限りの拷問を行い、ハヤテはそれを肴に自慰行為にふけっているという噂だ」
アーリは憎悪に似た光をその瞳に宿しながら、忌々しげに語る。
「……本物のクズか」
何者かも分からない俺に警告もなしに攻撃を仕掛けてくるような奴だ。
良識があるとは思わない方がいいかもしれない。
お礼参りの意味でも潰しておく必要があるのかもしれないな。
如何ほどの強さなのか分からないとはいえ、勝てない事はないだろうし。
そのために与えられたスペックであるだろうし。
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