03





 黒い煙を上げて炎上し続けていて原形をとどめていない砲台を眺めていると、これが俺の実力によるものなのだと実感できる。


 目から光線を出した時は自分が何をやっているのか見えていなかったし、アーリにいたっては指一本で半殺しにしてしまっていたしで、自分の強さが如何ほどなのか実感がわかなかった事もあった。


 たかが石ころ一つで砲台を破壊できた今だと、俺の強さというものがよく分かる。


 今の俺って結構強いんだな。


 ニート生活だった頃は筋力が低下していて、トイレにダッシュしただけで息を切らせていた。


 その頃が懐かしい。


 懐かしいと言っても、前世みたいなものだから、過去の俺とは違うんだといったところか。


 万能っぽくて嬉しいね。


 ウキウキする。


「さて……」


 この強さならば、あの城塞都市とやらも落とすのは容易いかな。


 まあ、落とす落とさない以前にあの城塞都市に入って情報を仕入れたいだけなんだが……。


 正攻法で行ける……いきなり砲口を向けてきた以上、この城塞都市を支配している奴がまともとは思えないし……ワケがない。


 そうなると、この城塞都市のトップをしばき倒して、軍隊を叩きつぶして、無力化させてから話を聞くべきか。


 その手段しか俺には思いつかないから、そうしかないか。


 でも、この世界について知っている奴がいるかどうかが不明なのが怖いところだ。


 この城塞都市を陥落させたとしても、情報を得られませんでした、じゃ意味がない。


 どうする、俺?


 どう行動する、俺?


『空から落ちてくるのである』


 いきなり女の声が脳に響いた。


 俺の脳に直接話しかけてきたのだから創造主かと思うも、声音が全然違う。


 創造主の声を無邪気な少年だとするのならば、落ち着いていて知性を感じさせる女の声といったところだ。


「……空から落ちてくる、のである?」


 何を指し示しているのかと俺は空を見上げる。


 俺が元住んでいた世界と同じように青い空と白い雲が広がっている。


 違っている点といえば、太陽がない。


 太陽の代わりのように太陽よりも小ぶりな星のようなものが多数見えている事だ。


 それらがこの異世界では太陽の代わりとして地上を照らしているのかもしれない。


「何もないが……」


 俺の言葉に反論するかのように、白い雲に一点の穴が開いたかと思うと、その中心点から雲が円を描くようにして消えていった。


 それは空から何かが落ちて来る前触れのようなものであった。


「何かで見た事があるぞ、これ」


 この後の展開が予想できたからなのか、思わずすぐ傍にいたアーリの手を取る。


 この世界にもやはり宇宙はあるのだろうか?


 それとも、宇宙ではなく、空がずっと続いているのだろうか?


 そこから俺達を狙っている者でもいるとでも言うのだろうか?


 人ではないとするのならば、それは衛星兵器だ。


 ビームを発射できる砲台を設置できる程の科学力があるのならば、衛星兵器くらい開発可能な技術力があってもおかしくはない。


「な、なんだ!?」


 俺と同じように燃え尽きようとしている砲台を見ていたアーリはワケが分からないといった表情で、俺に行動の意味を目で問いかけてくる。


「空から落ちてくる!」


 アーリはそう言われても意味不明だといった様子で眉間に皺を寄せて、多少の抵抗をしてみせる。


「逃げるんだよ!」


「あう?!」


 アーリの手を引っ張って、小さな身体をこちらに寄せるなり、俺はアーリの身体を抱きかかえた。


「な、何をする!!」


 手足をじたばたさせて逃れようとするも、俺は強く抱きしめて暴れさせないようにする。


 アーリは耳まで真っ赤にさせて、細やかな抵抗をしてくるも、俺は気にもかけずに城塞都市から離れていった。


「いいから逃げるんだよ! 俺の予想なら衛星兵器だ、これは!」


「えいせいへいき? なんだ、それは?」


 俺の予想は正しかった。


 最初のは出力調整の試射か何かだ。


 雲が円形に消えていった箇所に空から一筋の光が降り注ぎ始め、その光が段々と膨らんでいき、光の柱が天より降りてきたようになっていった。


 しかも、その光の柱が当たっている地表が溶けるようにして穴ができあがっていく。


 それは後光などとは違う、肉眼では視認できないほどの高度からの、元いた世界で言うところの衛星軌道上からの攻撃だった。


「静止衛星型の兵器だと?! そうじゃないかもしれないけど!」


 上空から降りてきた光の柱は段々と俺の方へと向かって移動し始め、その軌道には、土が溶解したかのような跡が連なっていた。


 その速度が増していく。


 俺達へとすぐさま到達できそうなほどのスピードであった。


 俺は走る速度を上げた。


「アーリ、俺にしっかり捕まっていろ!」


 俺の命令が届いたのか、それとも、アーリの意思なのか、俺の首に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。


 俺に捕まっていなければ、振り飛ばされてしまうだろうし、それくらいがちょうどいい。


「駆け抜ける!」


 力をセーブして、上空からのレーザー兵器みたいなものの追跡を振り切るしかあるまい。


 セーブした場合、逃げ切れるのか?


 分からない以上、逃げるしかない。


 さらに速度を上げる。


 衛星上からの光もスピードを上げていく。


 さらに足早になる。


 俺にしがみついてくるアーリが俺に身体を預けるようにして、さらに抱きついてくる。


 その顔はどこか不安げで、俺を掴む手が段々と汗ばんでいるのが分かる。


 エネルギーの出力が無限であるはずはない。


 無限であれば、砲台からの攻撃に頼らず、最初から俺達を上空から打ち抜けばよかったはずだ。


 有限であるのならば、逃げ切ればいいだけだ。


 尽きるまで逃げ切ればいい!


 ちらりと横目で俺達を追ってくる光を見やると、初期よりも柱の大きさがすぼんでいるようにも思える。


 逃げ切れ、俺!


 段々と光が収れんしていく。


 そして、本当に一本の光の筋になったと同時に地面を焦がす事もできずにふうっと消失した。


「……ふぅ」


 速度を落とす。


 背後も振り返るも、地面に描かれた光の軌跡は光が消えたところで終了している。


「終わったか?」


 俺はようやく立ち止まる。


 俺に抱きついていアーリから力を抜いたのが肌を通じて伝わってくる。


「ふぅ……」


 レーザー兵器に追い回されるとは貴重な体験をしたものだ。


『逃げ切ったようである』


 また頭の中で先ほどの女の声が響く。


「……誰だ、お前?」


『余の名はワーキュレイ・シュトラバスである。この世界の三分の一の事実を知る者であり、人々は余を大賢者ワーキュレイと呼ぶ』






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る