05
「この私がこの世界の事を説明すると思っているのか? 馬鹿馬鹿しい。馬鹿め、説明しよう」
涙目のまま、細やかな抵抗をした形跡が見られた。
だがしかし、完全に抗う事はできなかったようで、説明してくれるようではあった。
魔王相手には、完全な隷属は不可能と言ったところか。でも、それでいいか。従順過ぎるようにしてしまうのは悪い事ではあるし。
「この世界の名前はなんて言うんだ?」
ここに無理矢理連れてこられたようなものなので、俺はまだこの世界の名前を知らない。
「ふふんっ、そんな事も知らないか?」
アーリは俺の事を小馬鹿にするように鼻で笑った。
「だから、教えて欲しいんだ。この世界の名前を」
「ここは……ええと、我らの大陸だ」
「……は? もう一度」
「我らの大陸だ」
「……」
つまりは、名前がついていないという事なのか?
それとも、魔王側の勢力はこの大陸の名前を付けていないとか覚えていないとかそんな感じなのか?
「名前がないのか? この大陸には」
そんな馬鹿な事があってたまるか。
そこに住んで生活している者達が自分たちの生活の基盤たる大陸に名前を付けないはずはない。
「名とは勝者が決めるものだ。それまでは名前を決めるべきではない」
「勝敗が決していない間は名前が付けられないと?」
「そういう事だ」
「……ふむ」
この世界……どれくらい広いのか分からないけど、魔王軍? でいいのか? それと争っている勢力の戦いを終わらせて、無事に平定すればこの大陸の名前が付けられる権利が与えられる、と。
大陸の名付け親になるのは悪くはないかもしれない。
この大陸に俺の名前なんかを付けちゃったりして、数十年後、『あれは俺的な黒歴史だったな』と言える所業をやってみたいな。
待て待て。
これは孔明……もとい、創造主の罠かもしれない。この世界を救わせるための。
「で、この大陸はどれくらいの広さなんだ?」
まだ名前がないにしても、この大陸の広さくらいは知っているはずだ。
「広さ? ふんっ、知るワケがなかろう。この大陸は広大過ぎて、誰も把握していない。邪神様でさえこの世界の全てを知らないのだからな」
アーリはようやく落ち着いたのか、手の甲で頬に残っていた涙を拭い、胸をはってそう言い放った。
「なるほど、なるほど、お前が知らないだけで、他の奴が知っている可能性も捨てきれないとも言える」
「……お前、私を馬鹿にしているのか? これでも私は知将として名をはせた第四魔王なのだぞ?」
「いや、馬鹿にしてないな。ちっこいからそんな背伸びした事を言っていると思っただけだ」
「ちっこいとは何だ! ちっこいとは!」
抗議するように鋭い眼光で俺を睨み付けてくる。
さすがは魔王と呼ばれる事だけあって、転生する前だったら、すくみ上がって失禁さえしてしまいそうなほどの研ぎ澄まされたような切れ味の鋭さのある眼光だ。
「見たまんまを正直に述べただけだ。悪意はない」
「私はちっこくはない! 訂正しろ!」
「なら、可愛いと言っておこう。うん、アーリは可愛い、可愛い魔王だ」
もし、俺が高校生というか、アーリと同い年で、同じ学校にいたりしたら、アーリは学年内で可愛い女子の上位に入っていてもおかしくはないレベルだ。
「……か、可愛い? し、仕方ない。その言い方だけは許してやろう。私は可愛くはないが……」
まんざらでもなさそうに頬を赤く染めて、俺から視線を逸らした。
アーリをいじるのはこれくらいにしておこうか。
「……さて、アーリ。次の命令だ。俺は近場の街に連れて行け。そこで情報収集がしたい」
アーリ以外の何者かがアーリ以上に博識で、この大陸について誰も知らないような事を知っているかもしれない。
そういう奴を見つけるためにもまずは情報を集めないとだな。
「……分かった。近場の街と言えば、城塞都市チャリオン……となるが……」
アーリは不服そうに了承はしてくれた。
「よし、そこに行こう。案内してくれ」
「……分かっている」
だけど、城塞都市チャリオンと言葉にしたときの憂鬱そうな目が引っかかるが……。
「そのチャリオンとやらに何かあるのか?」
「行けば分かる。行けば、な」
アーリが意味ありげに微笑んだ。
魔王の敵対勢力か何かか?
アーリの言う通り、行けば分かるだろうから深くは詮索しないでおこうか。
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