04
「さて……」
額に紋章が刻まれた後も、仰向けになって目を閉じているアーリ・アーバンスタインを見下ろした。
棺桶に片足を突っ込んでいたかのような容体が安静に向かったと言うべきか、苦悶が消えて安らぎに似た表情に立ち替わっていた。
「契約がなされた事によって回復したのか。ならいい」
この様子ならば、このまま息絶えるという結末にはならなそうだ。
「ふふふっ……」
アーリの口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「笑えるくらいには元気になったという事か」
「残念ながら私には隷属の印は利かない。魔王の持つ力によって消去することができる……」
アーリは目をカッと見開き、『しかと見よ!』という表情になるも、額に刻まれている紋章に変化はなかった。
「……え? 魔王の持つ力によって消去できる……はず……」
アーリの顔色が段々と青白くなっていくのが分かった。
あれ? まだまだ回復しきれないから血の巡りでも悪くなっているのか?
「……で、できない……だと?!」
アーリの顔面が蒼白になって、唇がわなわなと震え始めた。
「バ、バカな……。魔王の力を持ってしても消去できぬ紋章は……我らが盟主の邪神のみのはず……。な、何故だ……?」
「紋章の形がアーリの部下に施されていたものとは差異があったからそのせいなのかな?」
「ぐぬぬぬ……」
アーリが悔しそうな目をして、今にも泣き出そうな面持ちになった。
身体同様に精神年齢も子供のようなものなのかもしれない。
「アーリの命を救うためにやった事だ。しかたなかったんだ」
そう言えば分かってもらえるだろうか?
「でも、これはない! この紋章はない! 絶対にない! 言語道断だし! あり得ないったらあり得ない!」
アーリは飛び起きるなり、顔を俺の目と鼻の先にまで近づけてきて、憤怒の形相で猛抗議してきた。
なんだ、この反応は?
どういう事なので?
「何故に?」
「この紋章を刻まれた者は主が『死ね』と言えば本当に死んでしまうほどの強制力を持つ隷属の紋章なんだ! それを……名前を知らんお前が私に施すとは何事だ!」
「そこまでの強制力を持つ隷属の紋章……? ならば……アーリ、お手」
俺はそう言って右手を差し出した。
アーリはそうするのが当然といった様子で、きょとんとした表情をして犬がやるように『お手』をしてきた。
「ほぉ……」
なるほど、これが隷属の効果というものか。
「アーリ、お座り」
俺から手を離して、アーリは不服そうな目をしたまま、まだ理解しきれていないきょとんとした表情で、その場にお座りをした。
「アーリ、ちんちん」
屈辱だと言いたげに顔を歪ませながらも、きょとんとした顔をし続けているアーリは見事ちんちんのポーズをしてくれた。
「理解した。どうやら、その隷属の紋章は魔王をも服従させる事ができるようだな」
「そう言ったであろうが!」
「試さないと分からない事もある」
「わ、私を犬扱いして、魔王としてプライドをズタボロにしようとしているのであろうが……そ、そうはいかん……うわあああん……」
アーリは恥ずかしいポーズをしたまま、屈辱に耐えきれなくなったようで大粒の涙を流し始めた。
泣いちゃったし、ここまでにしておこうか。
俺はこいつをいじめたりするためにこの紋章を刻んだワケではないのだし。
「アーリ、自由にしろ」
俺の命令から解放されると、アーリは魔王としての威厳を発するように背筋を正して腕を組み、泣いていないとばかりに手の甲で涙を拭った後、赤くなりかけている目で俺を睨み付けてくる。
「私の身体は隷属できても、私の心までは隷属する事はできない。それはだけは覚えておけ」
「うん、まあ、分かった。しかしだな、その紋章の消し方までは聞いてはいないから我慢してくれ。そのうちにその紋章の消し方を誰かから教えてもらうさ」
隷属は絶対のようだ。
そうと分かれば話は早い。
「アーリ、教えてくれ。この世界の事について」
俺はこの世界に転生されはしたが、この世界について全くと言って良いほど何も知らない。
ならば、魔王であるアーリにこの世界について語ってもらうのが一番ではないかと考えたのだ。
魔王ならば知っているはずだ。
この世界について。
この世界の秩序について。
この世界の勢力図などについて。
それ以外のこの世界についても……。
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