02
『この人、痴漢です!』
そんな一言で、俺はやってもいない痴漢の犯人にされて逮捕された。
それは俺が二十代の頃の話で、元いた世界でのえん罪事件だ。
映画で『それでもボクはやってない』というのがあったが、あの主人公同様、裁判において痴漢をしていない証明をいくらしても無駄で結局は有罪判決を受けて、俺の人生は終わってしまった。
日本では無罪判決を得る方が難しいからなのだけど、有罪を食らった事によって、俺は仕事やら友人やら社会的地位やら何やらを全て失ってしまった。
痴漢なんてしていなかったのにも関わらず、全てを失った俺は世界に見捨てられた気分になって、俺は生きていく自信を喪失して引きこもりになった。
そんな俺に世間は救いの手を差し伸べてはくれなかったし、両親は腫れ物を扱うように俺に接していた。
そう……俺は世界に捨てられたのだ。
そんな俺が飛行機の墜落事故に巻き込まれて死んだっていうんだ。
やはり、世間は世知辛い。
いやいや、幸運というべきか。
異世界への転生という形で、あんなくそったれの世界から解放されたんだし、願ったり叶ったりなんじゃないか?
そうか。
なんかやる気が出たと思ったら、あの世界から解放されたからなのか。
この世界なら、俺を見捨てたりした、あんな奴らと関わらなくていいから気楽だし、えん罪なのに俺を白い目で見ていた奴らからも解放されたから、心がこんなにも軽くなっているのか。
なんか納得できた。
あんな事で苦しまなくてもいいのならば謳歌しよう!
この状況って奴を!
この世界を!
そんな事をとりとめも無く考えながら、俺は襲い来る第四魔王軍の異形の者達と戦っている。
右。
左。
斜め後ろ。
背後。
俺に迫ってくる気配を察知するなり、俺の身体は即座に反応をし、攻撃される前に拳やら蹴りやらを繰り出している。
カウンターのような攻撃を繰り出す度に、相手の命の灯火が消えるような感触が伝わってくる。
「というか、かったるい」
一人一人を相手にしていては時間が無駄に浪費されるのではないか?
救世主レベルのスペックが与えられているのならば、必殺技の一つや二つ与えられていても不思議じゃない。
マニュアルはどこだ?
いやいや、マニュアルなんてあるはずがないから、俺に与えられているスペックを教えてくれ。
それさえ分かれば、後はどうとでもなるはずだ。
「ちぃっ!」
槍で突いてこようとしていたオークっぽい鉄騎兵をぶちのめしながらも俺は舌打ちをした。
ゲームじゃないんだからアビリティやステータスを見られるはずもない事に気づいて、思わず舌打ちしてしまったのだ。
「自分の中から見つけろって事なのかよ!」
巨大な斧を振り下ろそうとしていた豚みたいな巨人を拳で軽く屠りながら、考えを巡らせる。
「俺の知る限り……」
迫り来るゴブリンみたいな奴らを拳の風圧だけで吹き飛ばしながら呟く。
「覚醒したり、変身したり、次のステージに上がったりってのがセオリーか」
でも、どう変身すればいいんだ?
数人を蹴り飛ばしながら、思いを巡らせるものの全くもって思いつかない。
『見てられないね』
唐突にあの黒の世界で聞いた創造主とやらの声が頭の中で響いた。
『第四魔王の軍隊くらい三分で全滅させられるスペックを与えていたはずなんだけどね。仕方がない。君に与えた能力について簡潔に説明してあげよう』
「はい?」
『まずは、目をカッと見開いて』
「目を? あ、ああ」
何人も張り倒しながらも、俺は創造主の言う通り目をカッと見開く。
『目に光を貯め込んだよ』
「はあ? 光を貯め込むってどうやるんだよ!」
目に光を貯め込むなんて物理的に不可能だろうが。
『イメージだよ、イメージ』
イメージか。
瞳に光を収集させるイメージでいいか。
襲いかかってくる複数の敵をなぎ倒しながらも、俺は瞳に光を集めるイメージを脳内で展開させていく。
『それくらいでいいかな? 集めた光を放出するんだ。この辺り一面をなぎ払うように』
「おおよ」
集めた光で周囲をなぎ払うイメージ!
そのイメージが頭の中で構築された瞬間、視界が白く輝きだすなり、目から何か高出力の光が放出されているかのような手応えが……。
「これってもしかして……」
周囲をなぎ払うように俺は顔を動かすと、光は俺の顔の動きに合わせるように動いていくかのようだ。
つまり、これは……
「目からビームかよ!」
俺の目から発せられている光によって、生命の息吹と言うべきか、命の光と言うべきか、そんなものが次から次へと消滅していくのが手に取るように分かる。
なるほど、第四魔王軍ならば三分で全滅できると言っていたのは誇張などではなさそうだ。
……しかしだ。
「……ないわ。目からビームとかないわ……」
封印されし魔法、古代魔法とかそういうものでしかるべきだろう?
それなのにどうして目からビームを選択したっていうんだ、創造主とやらは。
おかしいだろ!
いや、間違っているだろう、選択そのものが!
そう思っているうちに、光の放出が止まった。
どうやら打ち止めになったようで、ようやく視界が戻った。
「威力は想像以上ではあるが……」
荒野に展開していたはずの第四魔王軍が見る影もないというべきか、最初から存在していなかったかのように消滅していた。
動いているものが見当たらなかった。
第四魔王とか名乗っていた小娘も今のビームで消し炭にでもなってしまったのだろうか、視界から消えてしまっていた。
「使い道は……あるのか?」
目から光線だかビームだかが放出されている間は『見る』という行為そのものが不可能になるので、ある意味『大技』だ。
奥の手か、あるいは、今のように大勢を相手にする場合にのみ使用してもいいかもしれない。
それ以外の場面では、隙がありすぎるので、使用は避けたいところだ。
「よくも私の可愛い部下達を! 許さん!!」
不意にアーリの声が空から降ってきた。
即座に反応して空を見上げると、金色に輝く霧のようなものを身体から発しているアーリ・アーバンスタインが俺を目がけて特攻をかけてきていた。
俺はその姿を見て理解した。
アーリ・アーバンスタインが『金色をまといし血に飢えた小悪魔』という通り名になった理由を。
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