第4話 光に包まれた部屋

 目が覚めると、ナルミは自分が光に包まれた空間にいることに気づいた。

 そこは、自分の部屋。しかし、いつもと違うところがあった。

「新聞!!」

 そう、新聞配達は夜明け前に行う。しかし、今は、もう日が昇っている。

 今何時だろう?

 ナルミは、大急ぎでメアのいるリビングに駆け付けた。

「おはよう、ナルミ。よく寝ていたから、起こさなかったんだ」

メアは、呑気そうにそう言った。

「でも、新聞配達が……!!!」

ナルミが、半ば絶望してそういうと、

「ああ、もう行かなくていいよ、あそこには。しばらく。あんたはあそこを辞めたことになってるから」

「!!!」

愕然としてメアを見つめると、

「独断で決めちゃったけど、悪かった……?」

と聞いてきた。

ナルミは、しばらく呆然としていたが、ややあって、

「ううん」

とだけ言った。

 実際、どうなのだろう。私は、新聞配達を続けたかったのだろうか?

わからない。仕事自体は、好きだった。でも、人付き合いは……

 そう考えていると、

「まず、ちょっと休憩することから始めよう。あんたには今まで、ちょっと頑張らせすぎた。さあ、朝ごはんにしよう」

とメアが言い、朝食の準備をし始めた。

 ナルミは、それを手伝おうとした。

「いいの、ナルミは。座ってて。今日ぐらいはあたしにも保護者らしいことをさせておくれ。明日からできなくなるかも知れないだろう?それより、着替えといで」

メアがそういうので、ナルミは自分の部屋に一回戻り、着替え、ちゃんとしてからリビングに戻ってきた。すると、

「じゃじゃーん」

メアが、元気よく歌った。

見ると、テーブルの上に、たくさんの料理が置いてある。その真ん中に、目玉焼きが置かれていた。それには、ケチャップで何か書いてあった。

「ナルミが元気になるように」

 それは、目玉の上に描かれた、顔だった。顔といっても、ちっちゃな目と口が書いてあるだけの、些細なものだった。しかし、書かれているそれは、間違いなく『笑顔』だった。

「メアさん……」

ナルミは、そう言って、涙をこぼしそうになった。

「また泣いて。まあ、嬉し涙だから、許してあげる」

メアはそう言って笑った。

「さあ、たんとお食べ」

「いただきます」

 ナルミは、これまで何も食べていなかったかのように、よく食べた。ナルミの食べる様子を見て、メアは嬉しそうに笑った。そして実際、これまで何も食べていなかったかのように、料理は美味しかった。

 間違いない。メアは、料理に何か魔法を使ったな、とナルミは思うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海の見える町 オレンジ5% @76-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説