第3.5話 夕食
「ナルミ、学校はどうだった」
夕食の席で、メアが聞いた。
「楽しかったよ」
ナルミはいつも通り言った。これがいつものやりとりなのだ。
「……本当に?」
メアが訊いた。
ナルミは、ぎょっとした。なんで?これ以上、メアは、何を訊こうというのか?
ナルミは、しばらく、何も話せなかった。そして、メアの目を見た。その目の光は、強かった。
そして、今日は嘘はつけないな、と思うのと同時に、もう今まで通りのやりとりをしなくていいんだという安堵の気持ち、そして、情けなさが、一気に押し寄せてきた。何があったかは分からないが、メアに知られたのだ。自分がいかに間抜けな学校生活を送っているか、知られてしまったのだ。ナルミは、いろんな思いでぐちゃぐちゃになりながらも、堰を切ったように、泣いた。
「無理をするなと言ったろう」
メアが、ナルミにそう言った。
無理?私は、無理をしていたのかなあ?そういえば、前にも、無理をしすぎてメアさんに叱られたっけ。前は、もっと些細なことだったけど。
「学校に、行きたくない」
声を出したけれど、ぐじゅぐじゅとした鼻声しか出なかった。
メアは、ナルミにティッシュを渡して、ナルミの頭や背中を撫でた。しばらく、何も言わないで、そうしていた。ナルミは、悲鳴にも似た泣き声で、しばらく何も憚らずに、泣き続けた。
「学校に行きたくないなら、行かなくていいよ」
ナルミの泣き声が落ち着き、嗚咽になってきた頃、メアはそう言った。
「学校に行っても、集中できないんだろ。これは、ナルミだけのせいじゃない。ナルミは一回、休んだ方がいいと私は思う。あとは、ナルミの決めることだ。学校にこのまま行き続けるか、一度休むか。」
ナルミは、ハッとした。自分の決めること。
学校に行き続ければ、辛いけど、授業は受けれる。かろうじて。でも、学校を休めば、受けられない。もう完全に置いてけぼりになる。
その取捨選択を、ナルミは今、迫られている。今まで授業に集中できなかったのは、私だけのせいじゃないとメアは言った。本当に私だけのせいじゃないんだろうか?もし、本当は自分のせいで、休むことになるとしたら、私はなんて馬鹿者なんだ?
そんな思いがナルミの頭をよぎった。すると、メアが
「学校の授業は、いくらでも追いつける。問題は、あんたの心の問題なんだ。ナルミ、しばらく私と一緒に仕事したり、勉強したりしないか?その方が、あんたにとっていいと思う」
と言った。そして、
「今まで放置していた私が悪かった。ナルミ、許してくれ」
と言った。それを聞いたナルミは、
「なんで?なんで謝るの?悪いのは全部、私なのに」
と、ますます泣いてしまった。ナルミは、涙を止めようとしたが、無駄だった。涙腺が崩壊してしまったようだ。
その日は夜遅くまで、メアがずっと付き合ってくれた。メアは暑いお茶を淹れてくれて、話をずっと聞いてくれた。話というのは、学校でどんな嫌なことがあったか、とか、郵便局のおじさんが嫌味を言ってくることとか、くだらないことだったけど、メアは、親身になって聞いてくれた。
そして、寝る前になって、メアは
「ナルミ、ごめんね」
とまた言うのだった。
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