第2.5話 学校

 ナルミの恐怖は夕方まで続いた。学校があるのだ。ナルミはたくさんの人間のいるこの空間が大嫌いだった。さして面白くもない授業、そして威張り腐った教師、そしてそれに劣らずやかましい生徒たち。

 

 ナルミにとって安寧の時は昼休みだけだった。昼ごはん、それは自分で作ることがほとんどだった。それを唯一の友達とも言える女の子、ヨウと一緒に空き教室で食べて、(ヨウは大人しい子で、ナルミもまたそうだったので、二人の間の会話は弾まなかった)その後彼女と別れ、図書室へいくのがナルミの日課だ。


 図書室では、勉強中の子供達、特に受験を控えている子供たちが静かに威圧感を放っていたので、ナルミは机のあるスペースに近い奥の方の棚には行かなかった。そして本を見る間も、物音をまるで立てないようにした。


 ナルミはこれといって読みたい本があるわけでもなく、ただ、そこが落ち着くから図書室にいるだけだった。しかし、ごくたまに、いいなと思う本があり、手にとってみることもあった。それらは大抵、挿絵や写真の多い画集や写真集だった。ナルミは活字が得意ではなかった。


 そして、ナルミは腕につけた時計をちょくちょくみることを忘れていなかったので、そろそろチャイムが鳴るな、と思う頃には、本を棚に返していた。ナルミは、思えばいつも時間に追われているような気持ちだった。この図書室にいるときですら、あとどのくらいの時間、自由でいられるか、この図書室にいられるかばかり気にして、肝心の本に集中できる時間はごくわずかだった。

 

 それは、授業中でもそうだった。あとどのくらいの時間、この辛い教室にいなければならないのか、あとどのくらい、このつまらない授業を受けていなければならないのか、授業そっちのけで、時間のことばかり気にしていた。

 

 ナルミは、そのせいで、どんどん授業の内容が分からなくなっていった。ナルミはもともと、そんなに頭の悪くない子だったが、勉強に集中できなければ、それなりに成績も下がる。あまりにも何も分からないし、受け答えも下手なせいで、他のクラスメートからは頭の悪いおかしいやつという扱いを受けた。ヨウだって、ナルミが頭の悪いことを否定することはできないだろう。実際、ナルミ自身、自分は本当におかしいと思い込んでしまうようになった。


 ナルミは、夕方のチャイムがなる時には、椅子に座っていただけなのに、何件も新聞を配ったあとよりくたくたになって、老けたような気がした。しかし、それでも、帰れるという事実だけが、ナルミを元気付けた。

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