女神アテナへの執拗なリセマラいじめ

ちびまるフォイ

いじめに自覚の有無はない

――シュン


男が降り立ったその場所はなにもない真っ白な空間。

そして中央には羽の生えた女神がおわしていた。


「あなたが今回の転生者ですね。私は女神アテナ。

 まさか本当に豆腐の角で頭をぶつけて死んでしまうとは……」


アテナは手の甲に書いたカンペをしっかり音読する。


「そんな不遇な死に方では浮かばれないでしょう。

 ということで、あなたには特別な力を与えて、

 異世界で新しい生活をはじめるのがふさわしいです」


「どんな能力ですか?」


「そうですねぇ、現世の記憶を持ち込める、というチート能力です」


――シュン


男は一瞬にして消えてしまった。


「え!? え!? なんで!? どうして!?

 まだ異世界に転生させてないのに消えちゃった!」


アテナは慌ててカスタマーセンターに連絡したが、

その直後に男がまた戻ってきたので安心した。


――シュン


「あ、あれ? さっきまでいましたよね?」


「また死んでしまいました」

「スペランカーじゃないんだから……」


アテナは再びいつもの口上を続ける。


「えーっと、あなたは現世でとても可愛そうな死に方をしたので、

 私の転生能力でもって、新しい世界で第二の人生を歩むと良いでしょう。

 お詫びと言ってはなんですが、私から能力を授けましょう」


「どんな能力ですか?」


「絶対に倒れることのない、絶対不死身の能力です」


――シュン


男はふたたび消えてしまった。

ぽかんと取り残されたアテナの前にまた男が死に戻りしてきた。


「また死にました」

「……」


「女神様、俺また死にましたよ」


「……してるでしょ」

「え?」


「リ セ マ ラ し て る で しょ!!!」


女神は白い羽を赤く染めてブチ切れた。


「なんなのよさっきから! 何度も出たり入ったりしてさ!

 私が毎回与えるべきチートをこしらえる手間を考えてよ!!」


「で、どんな能力ですか?」


「お金が無限湧きするチーt……」


――シュン


男はふたたび消えた。

またすぐにひとりの男が戻ってきた。


「ちょっと!! またリセマラしたでしょ!! いい加減妥協してよ!!

 あんたのために毎回能力変えるの大変なんだから!!」


「أنا متزوج أنا لست متزوجا」


「……は?」


「ワタシ、ココクル、イワレタ。ノウリョク、キク。

 ☆5ノウリョクナラ、ワタシ、オカネモラエル」


「あいつバイト雇いやがった!!!」


リセマラバイトのアラビア星留学生・トラボルタ君は、

今回の与えられる能力が「成長速度倍加」と知るやすぐに消えてしまった。


「ハズレネ」


その捨て台詞だけを残して。

女神アテナはすでに女神という肩書がイメージダウンに繋がるほど取り乱していた


「やなやつ、やなやつ、やなやつーー!!」


天界で地団駄ふむ女神は完全に「嫌いな男子」から

徐々に好きになっていくパターンのソレだった。


「というか、なんでそもそも私があいつのために

 毎回毎回バリエーションに富んだ能力を作らなきゃいけないのよ。

 立場的には私のほうが上じゃない」


女神は忘れていた自分の立場を思い出した。


「そうよ! わがまま言うような人間に能力なんて不要よ!

 生身で異世界に転生させて、せいぜい生き抜くことの難しさを知るがいいわ!

 あははははは!!」


――シュン


羽を嬉しそうにピコピコ上下させるアテナの元に男がふたたびやってきた。


「どんな能力ですか?」

「あ、もう私の前口上聞く気ない~~♪」


女神のソプラノボイスが虚しく天界に広がった。


「おあいにくさま。あなたのような不届き者に与えるチートはないわ。

 リセマラして女神の怒りを買ったことを後悔しなさい」


「そうですか、じゃ、これいらないですね」


「ちょ、ちょっとまって? 何その紙袋」


「俺、これまでリセマラしても良い能力がもらえなかったじゃないですか。

 それはひとえに女神様への信心深さが足りていなかったのではと思ったんです」


「うんうん」


「で、女神様への思いの深さを伝えるにはどうしたらいいかと思いまして

 こんな形でしか表現できないんですが、女神様には献上品をと」


「うんうん!!」


「女神様は甘い物平気ですか?

 現世では有名なおかしなんですがお口にあうかどうか」


「もーー!! こういう気遣いが出来るなら最初からやってよ~~!!」


女神アテナは口周りをあんこにまみれさせて献上品に舌鼓を6連打くらいした。

献上品を食べ終わるとアテナはすっかり機嫌を直し、自分のキャラを思い出した。


「ふぅ、なかなかいい心がけだったわ、人間」


「キャラ変わってません?」


「いいでしょ!! こう、私とあんたとの立ち位置をはっきりさせる必要があるの!

 ちょっとご機嫌取れたくらいで調子に乗らないで!!」


「で、どんな能力ですか?」

「こいつほんと現金な……」


アテナは背中に隠していたカタログを取り出した。


「私の女神ランクで与えられるチートはここからここまでね。

 また何度も出入りされるのも面倒だから、あんたが選んでよ」


「うーーん……」


男はアゴに手を当てて難しい顔をしていた。


「決まった? 決めるなら早くしてね。この後、女神ヨガの予定あるから」


「決まりました」

「あ、そう。どれ?」


「いりません」


「えっ?! なんで!? どうして!? 女神意味不明なんだけど!!

 あんなにチート能力欲しがってたじゃない! どうして!?」


男は申し訳なさそうにこめかみを指でかいた。


「いやぁ、☆1の女神アテナ様から与えられるチート候補に

 なんかどれもいいのがなくって……ほかの女神を当たります」



――シュン



消えたのは女神だった。





「どうして私が☆1なんですか!

 いい女神ランクが出るまで何度でも女神転生しますから!!」


「お願いだからもう諦めろって……」


大天使は女神アテナのリセマラ被害でうつ病になった。

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