第20話 ワープホール

「くそっ!連れてかれた!!」

 海王石は舌打ちをした。すみれは突然みどりとレオンが黒い穴の中に消えてしまったことに驚き、恐怖し、立ち尽くしていた。

「あいつらを助けに行かなきゃ」

 海王石は普段とは違い、ひどく取り乱しているようだった。

「おい、あんた、レオンとみどりを天河石のところに連れてったんだよな」

 海王石は敵の女の肩を掴み聞いたが彼女の目はもうどこも見ていないようで、ぐったりとしていた。

 海王石はしばらくの間、女の口元あたりを手でかざし、色々調べたりしていたが、急に言った。

「この女が作った穴は天河石のいるアジトに繋がっている。今までそこが暴かれることはなかった。だが、この魔法の痕跡のからいうと暴ける。これは南西あたりにつながっている」

「わしたちも、そこに行きましょう」

 すみれは息急き切って、そう言った。みどりとレオンが心配だったからだ。

「すぐに行けるなら、行きたい。だが…」

「だが?」

「私はワープの術は使えるが、行ったことのない場所には使えないんだ。それに、この敵は変な呪文で操られていた。意識が正常に戻るまで、王宮の医療班に任せ、それから監獄に送りたい。闇サンゴも王宮の方に送らなきゃならないし…」

 海王石は、突然すみれの方を見て言った。

「王宮まで、行ってくれるか?」

「……」

 すみれは答えに迷った。自分が王宮に行くということは、どういうことか、わかっていた。

「海王石さん一人で天河石のアジトに行くつもりですか?」

「そうではない」

「ではどうするんですか?」

 すみれは聞いた。すると海王石は、

「私たちには本当に強い味方がいるんだ」

と言った。

「すみれ、聞いてくれ。今回のことは、異例の事態だ。あんたにも手伝ってもらわなきゃ収拾がつかなくなる。あんたを王宮に送って、あんたが金剛石に、事態を説明して、味方を集めて来てくれたら、なんとかなる。私も、やるだけのことはする。どんなところにもワープホールをつなぐことのできる者に会いに行って、すぐに王宮と天河石のアジトを繋いでもらう。あいにくその者は、連絡がつかないから、直接会いに行くしかないんだ。でもそうすれば、みどりたちを助けることができる。そうだろ?だから、協力して欲しいんだ。一人で行くのが不安なのはわかる。ちゃんと王宮には前もって連絡する。行ってくれるか?」

 張りつめた表情の海王石に見つめられて、すみれは嫌とは言えなかった。

「はい、もちろんです」

 すみれは突然自分が一人で考えて行動しなければならないとわかって、ひどく不安になったが、それを顔に出すまいとして返事した。今、自分は頼られているのだ。

「よし、そうと決まったら」

 海王石はまず、懐から小さな箱を取り出して、洞窟の隅の方に歩いて行った。そこには、あの禍々しい闇サンゴがあった。

「まず、これを回収しなければな」

 海王石さんは手を触れないで闇サンゴを浮かし、箱の中に入れて、箱に鍵をかけた。

「これをもって行って欲しい。それから…」

 海王石は敵の女のことをしっかりと立たせて、敵の腕に縛った縄の先端をすみれの腕に結んだ。

「何があってもこの者と離れずに王宮にたどり着くように。そうだ、『守りの呪文』をかけてやる。」

「『守りの呪文』?」

 すみれは思わず聞いた。

「そうだ。あんたには、あんたの町の領事、黒曜石がかけたと思うんだが、私からもかけておこう。」

 そう言って、海王石はすみれに羽のついたネックレスを首から下げさせた。

「この呪文は、相手の持ち物にかけることでその持ち物がいざという時に持ち主を守ってくれるという代物だ。黒曜石に、かけてもらったかい?」

「わかりません、『案内の魔法』はかけてもらったんですけど…」

「じゃあ、きっと大丈夫だ。あんたには二重の守りが付いている。安心して。問題は、みどりだな。私からはかけていない。レオンのが、効いているといいんだが」

 海王石がふと心配そうに遠くを見るような目になった。が、すぐに

「よし、準備はできた。すぐ行かせよう」

と言った。海王石は何やら耳元に手を当てて電話をかけるみたいな仕草をして話し始めた。

「今から客人が一人参る。緊急故に説明は後にしてくれ。客人を不躾に扱わないように、お願い申し上げる。」

 そう言って、海王石はもう片手の小指を突き出して、そこから青い、渦のようなものを出した。それは海王石のワープホールだったが、先ほど敵の出した黒い穴とは違い、宇宙の銀河のようでとても綺麗だった。

「この中に入ってくれ。王宮につながっている。」

 すみれが片足を入れると、

「幸運を祈る。」

と海王石が背後から言った。

「はい、海王石さんも」

とすみれは言って、勇気を出してそ美しい渦の中に飛び込んだ。



 海王石はすみれが渦の中に吸い込まれて消えるのを見届けて、その渦を閉じた。

「ふう、次は私だね」

 海王石はそう呟くと、もう一つ渦を出した。そして、自分からその穴に入り、消えていった。


 

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