第24話 女王
天河石がみどりの方へ近づき、みどりの耳元に何か囁こうとした。
その時だった。みどりの耳元で天河石のものでは無い声がした。
「ストーカーは、お前だけじゃ無い」
みどりの耳元で髪を束ねていた赤いハートの飾りつきヘアゴムが、ばちんと弾けた。
「いてっ!!!」
天河石の頰に、ゴムと飾りのかけらが、ビシビシ当たったようだった。みどりは、無傷だった。天河石は、頰を抑えて呻いた。普通よりひどい痛みだったらしい。
みどりの外れたおさげとは反対側の耳の方で、声がした。
「みどり、逃げろ」
その声はレオンの声だった。
「なぜ?」
「」
「俺たちが帰って来たからだ!!!」
後ろの方で、ドーンという音がして、扉が開いた。そして、ダダダダという音とともに、大勢の人が押し寄せて来た。
その中心には、レオン、ドゼ、海王石、すみれ、そして白いマントをかぶった人がいた。その後方には、何人もの人がいた。
海王石が、天河石の前に走って来た。真っ黒いつるぎのようなものを天河石の喉に突き立てた。
「よくも、あんた、あたしたちを使ってみどりを泣かせたね!許さん」
レオンが天河石の手足を魔法の縄で縛った。天河石と海王石、みどり、レオンを囲んで、大勢の人の輪が出来た。その人の輪は、どうやら、この天河石の宮のものと、金剛石の王宮のものとで、構成されているらしかった。
「どうやって、ここに?」
とみどり。
「後で説明するよ」
と海王石。
「何をやっている、お前たち、こいつらを殺せ」
天河石が、喘ぐようにそう言った。幾人かの兵士が、カチャカチャと動いた。
「おっと、待ちな。うちらを攻撃するんなら、この水晶玉をよく見てからにしな」
そういうと、海王石は、玉座の脇の水晶玉を手にとって、その上に手をかざした。
「なんでも見える水晶玉さん、この世の真理を解き明かしてくださいな」
海王石がそういうと、水晶玉の中に、天河石の兵士たちの顔が映り込んだ。
そして、その口から、天河石への陰口が大音響で流れ始めた。
これを聞いた天河石も、兵士も、皆唖然としてしまった。水晶玉の影は、兵士から侍女に変わった。その口からも、悪口が出るは出る。そのあとも、何人もの人々の口から悪口が流れ続けた。
「いやあ〜、これ、いつの?すごいね、ここまで嫌われている人っているのかい」
海王石は感心したようにそう言った。
「この人を本当に尊敬してるっていう人から、攻撃していいよ」
この言葉に、誰も動くものはなかった。
「よく聞きな、あんた。あんたにはもう、本物の力がないんだよ」
そういうと、海王石は水晶玉の上でもう一度手をはらい、映像と音声を止めた。
「そんなことは承知している」
天河石は食い縛った歯から絞り出すように声を発した。
「だろうね、いつもこれで調べてたんだろうね。じゃなきゃ、世界を壊そうなんて思いつかないよ」
海王石は吐き捨てるようにそう言った。そして、向きを変えて、白いマントの人に向かって膝をついてこう言った。
「捉えましたが、いかがなさいます?女王様」
多くの人が、一斉にマントの人物に目を注いだ。みどりもその一人だった。
女王と呼ばれた人物は、マントを脱いだ。
その途端皆、膝をついた。みどりもその通りにした。
女王の顔は、この世のものかと見まごうほど美しく、若々しかった。実際、彼女はまだ10代か20代前半と思われた。その金髪は短く、独特にカールしていた。瞳は、キラキラと強い光を放っていた。
「この者の罪は重いです」
女王の口から発せられた言葉は、真実だった。
「この者は何人の人を殺したか、何人の人を傷つけたか、水晶玉に問うて見たところで、一度きりしか殺せません」
美しい女王の無表情の顔に、怒りの影がちらついた。しばらく女王も誰も、何も言わなかったけれど、女王は再び口を開いて、
「私は、人を苦しめるのが趣味ではありません。早急に、死刑に処しましょう」
と言った。
海王石があの剣を振るいあげた。
「待って!」
みどりは思わず叫んでいた。
「殺しては駄目…殺しては駄目です」
みんな、みどりを気が狂ったか、とでも言いたげな表情で見ていた。女王に口出しするなんて、狂気の沙汰だ。
しかしみどりは、話し続けた。
「このものがばらまいた闇サンゴはどうなるんです?このものしか、場所を知らないのでは?それに、海王石に無駄に手を汚させることはありません」
女王は海王石と顔を見合わせた。そして、女王はプッと吹き出した。
「まったくその通りですね。この者を監獄まで連れて行きましょう」
海王石は剣を下ろした。
みどりと、そしてもう一人、すみれもそっとため息をついた。目の前で血が流されるのを見るのが嫌だったのは一人や二人ではなかったのだ。
天河石は拘束を解かれ、みどりたちはお互いの無事を喜びあった。そして、みんなで王宮へのワープホールをくぐっていった。
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