第18話 洞窟

 探知機は闇サンゴが近づいていることを示していた。反応を示す色がやまぶき色から、だいだい色に変わっていたのだ。


「ここだね」

海王石が言った。


 海底の崖に真っ黒い洞窟が口を開いていた。

レオンがヒュウと口笛を吹いて、

「ぶっきみ〜」

と呟いた。

「本当にこの中に入るんですか?」

すみれが言った。

「当たり前。恐るべきは、洞窟そのものより闇サンゴそのものだ。覚悟しとけよ」

海王石がそう言って、海流を動かし、中へ入ろうとした。が、

「そうだ。そろそろこれを飲まなければ」

と言って、一つのガラス小瓶を懐から取り出した。中に小さな水色の丸いものがいくつも詰まっている。

「なんですか。それ」

とみどりは聞いた。

「対闇の魔術用の薬だ。これがあれば、闇サンゴなどの悪い気にあてられなくてすむ。一応結界は張っているから大丈夫だとは思うが、念のためにな。みんなそれぞれ一粒ずつ飲んでくれ」


 海王石は瓶から薬を出してみんなに分けた。みんなはそれを口に入れた。水がなかったので飲みづらかったが、みどりはしっかり飲み込んだ。


 海王席が明かりを灯し、またたびボールは洞窟の中へと入っていった。洞窟は一度下の方に下がっていき、また上の方に上がっていった。上の方に行くと、ボールは水から空気中に顔を出した。洞窟の先には歩ける陸がある。

 

 一同はまたたびボールから出ると、陸に上がった。そこは思ったより広い空間だった。この洞窟のどこかに闇サンゴがある。探査機の水晶玉は今やカーネリアンのような色をしていた。


「近いな」

 レオンが言った。

「ああ」

 海王石が言う。


 あたりは緊張に包まれていた。いやに静かだった。少し物音を立てただけで、何か起こりそうだった。

一同は洞窟の奥へと進んで行った。


 洞窟の先に、二手に分かれる道があった。一同は、探知機の反応を見た。探知機は左手の方へ行くと僅かではあるがより強い反応を示した。一同は左の道を進んだ。


「あれだ」


 道の先には、とうとう闇サンゴがあった。

それは本当に小さかったが、本当に真っ黒いサンゴのかけらで、禍々しい闇をたたえていた。

 みどりは、冷や汗をかいた。嫌な塊だ。見るだけで、吐きそうになる。


 すみれもそう思ったらしく、呼吸が浅く、青白くなっていた。


 そこにいる誰もが一刻も早くこれを始末したかった。しかし、

「面倒だな、隠れてないで、出て来たらどうだい」

海王石がそう言った。


 一同は硬くなって身構えた。すると、


 ドレスのような衣装に身を包んだ女の人が、石筍の後ろから姿を現した。ずっと隠れていたのだ。


 その女の人は何も言わなかった。ただ、手のひらから鋭利な氷を放った。


ザシュッッ


 一同は氷を避けていた。

 海王石が瞬間移動の魔法をみんなに使ったらしかった。氷は地面に突き刺さった。


「海王石、そろそろ俺は結界から出してくれていいよ。自分の身は自分で守るから。」


 レオンがそう言って、結界の外に一歩出て、自分用の結界を張った。その直後に、女は氷をまた全員に向けて放って来た。今度はより大きなものをだ。


 海王石は防壁シールドを張ってそれを防いだ。レオンは瞬間移動した。

「ここにいろ」

海王石はみどりとすみれを少し離れたところに逃がし、防壁シールドを張った。

みどりとすみれはそこからは見ているだけとなった。

そこから先はめまぐるしくてみどりには追いつけない戦いだった。


 女は無言で氷を放ち、海王石とレオンはそれに瞬時に答えて、回避した。

そして、それぞれの呪文で、応戦していた。

 レオンは風圧で氷を跳ね返した。

 海王石はどうやら、氷を水に変えることができるらしかった。液体となった氷は、女の元へ集まり襲いかかっていった。女はさらにそれを氷に変え、また海王石達に放とうとした。しばらくこのイタチごっこが続いた。


 その戦いは激しく、しばらく終わりそうにもなかった。



「私たちに、何かできることはないかな」

すみれがそう呟いた。


 みどりはすみれの方を見た。

 

 やっぱり戦いたいんだ。


みどりは少し黙った後、言った。

「きっとあるよ。ちょっとまって、いいこと思いついたから・・・」


 海王石とレオンが女を相手に戦いを繰り広げている中、みどりはすみれに思いついた策を小声で教えた。それを聞いたすみれはゴクリと唾を飲み込んで、

「できるかな」

と言った。

「わからない。でも待ってるだけは嫌じゃない?」

 みどりはすみれにそう言った。そう言った時のみどりの顔つきは、真剣そのものだった。しかし、自信に満ちて見えた。すみれは頷いた。

「そうと決まれば」

 みどりとすみれは杖を構えた。二人はタイミングを伺っていた。


 海王石とレオン、そして女は接近したり離れたりして戦っていた。みどりとすみれが狙っていたのは3人の距離が開く瞬間だった。そして、その時は来た。みどりとすみれは呪文を放った。


 女の周りを一陣の風が舞い踊った。それは女の足元から始まって、上に向かってどんどん伸びていた。小さな竜巻だ。この風の中には、洞窟の砂だけでなく、木の葉も混じっていた。女は足元をすくわれ、さらに視界を覆われてふらついた。

 そこへすかさず、海王石が攻撃を仕掛けた。女の両手両足に魔法の縄を出して縛りつけた。女は身動きの自由を奪われ、地面に倒れた。






 

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