第15話 討論
それはみどりの初めて見るものだった。
海中を駆ける馬具をつけた大きな黒い馬だった。
なんだかとても苦しそうに悶え、たてがみを振り乱しながらこちらに向かって突進してくる。
たてがみには緑色の草のようなものが付いている。
とても怒り狂っているようだ。
「なぜ、こんなところにケルピーが?本来淡水の湖や川にしか住まないのに!」
と海王石。
「敵のやつらがここに連れてきたに違いない。おそらく改造された種類だ!」
とレオン。
「ケルピーを操ることができるのは馬具をケルピーに取り付けることができたものだけだ。まさか奴らがそれを成し遂げたのか?」
「そのようだ。だが、馬具をつけたにしろやつらが無理やりこのケルピーに苦痛を与えたことは確かだな。」
レオンが唇を噛みながら言うのと、ケルピーがまたたびボールに向かって勢いよく突進してきたのが同時だった。
またたびボールは勢いよく水中を吹き飛ばされた。
またたびボールの中はぐちゃぐちゃになった。急いで体制を立て直し海中を見ると、ケルピーはなおも突進しようとしているところだった。
「まずい、このケルピーの攻撃をこれ以上食らったらボールが壊れるぞ」
とレオン。
「結界を張っているから大丈夫なんじゃなかったんですか?」
とみどりは言った。
「ああ、だが結界は時に高等魔法生物に嗅ぎつけられることがある。このケルピーは私たちのことを敵と思っているのかもしれない。レオン、海流を動かすのを手伝ってくれ!」
と海王石が言った。
「わかった!」
とレオンが言った。
海王石とレオンの二人のおかげで二度目の突進は免れた。
「急いでこの場を離れましょう!」
すみれが大きく叫んだ。どうやらすみれはあのケルピーのことをとても恐がっているらしい。
一行は暴れるケルピーを残してそのままその場を離れた。
「でも、ちょっとかわいそうじゃないですか」
みどりはつぶやくように言った。
全員がみどりの方を見た。
みどりは自分がまずいことを言ったことに気づいた。
今、一同が闇サンゴを一刻も早く見つけたいと思っているこの瞬間に、改造された哀れなケルピーのことなど気にかけている余裕などないのだ。現に、海王石の持つ闇サンゴ探知の水晶玉はまだやまぶき色だった。
「じゃあ、どうしろと言うんだ。殺していないだけマシだろう?」
みどりの正面にいた海王石がそう言った。みどりの横にいるすみれはみどりの方を困ったような顔をして見ている。
「でも……」
みどりは言った。そして海王石の背後に立っていたレオンの視線をなぜか強く感じた。みどりは彼の方にちらっと目をやった。彼の表情は読み取れなかった。だけど、言わねばと思った。
「見るからに苦しんでいました。もし改造に不備があったら?いくら改造した種類とはいえ、このまま海水に浸けられてあのケルピーは死んでしまったりしませんか?放っておいて、いいんですか?」
みどりは自分の声が少し震えているのを感じながら言った。
「その可能性はある。だがあのケルピーはそう簡単に救えるものじゃない。下手したら私たちは大きな痛手を負う。それに早くしないと任務が遂行できないんだよ。」
海王石はイライラしたようにまくし立てた。
「目の前の命が救えないで、何が任務なんですか」
みどりも悔しくなって言い返した。すると、
「お前、孔子みたいなこと言うのな」
レオンが言って、海王石の後ろから一歩前に出てきて、みどりの横に立って海王石の方を向いて肩をポンと叩いた。
「俺はみどりに賛成だ。」
「何?」
海王石が言った。
「まあ、そう興奮しなさんな」
とレオン。
レオンはそれからなおものんびり唄うような調子で続けた。
「海王石、お前の言うことは正しいよ。でも、俺はこいつに結構厳しいこと言っって無理やり魔界に来させちまってる。そもそも魔界の危機を子供に任せるなんてひどいよな。こいつは今ある種の志を俺に見せてくれてんだ。俺がこいつに答えてやらなくてどうする。」
みどりはレオンの方を見上げた。
わかってくれた!!
レオンは続けた。
「……まあ、俺の独り善がりかもな。でも俺はこいつのことを信じるよ。こいつは任務だって遂行するさ。」
「具体的にどうやって?言っとくが私は暴れたケルピーのなだめ方など知らんぞ」
と海王石が言った。
すみれはこの討論を下唇を誰も気づかないくらいかすかに震わせながら青ざめて見ていた。
「俺が手伝う。」
レオンはそう言うと両の手のひらを合わせ、それから離した。そこには真っ黒い穴のようなものが広がっていた。そしてレオンはそこに手を突っ込んだ。そしてそこからあるものを取り出した。
それは何やらひものようなものだった。なんだろうと思ってみどりが見ているとレオンが言った。
「新しい馬具だ」
「私たちで馬具を取り付けると言うことですか」
とみどりは言った。
「そうだ。今あのケルピーについている馬具は敵のものだ。あれを取り外して、俺たちのを取り付けることができれば、あのケルピーは俺たちの指示に従うだろう。そうすれば後にこの海水から出して、保護してやることができる。」
「なるほど、でも馬具をつける前に、落ち着かせることが必要ですよね」
すみれが言った。
すみれはどうやら馬具をつけることにのったようだった。
「ああ、そうさ。そこでみどり、お前の力がまた必要だ。お前がどこまで技を習得したか知らないが、無理やりにでも今回は技を発動してもらう。」
みどりは少し怖くなった。
「何をするんですか」
すると、この会話を続ける中ずっと不服そうな顔で立っていた海王石が、ふと口挟んだ。
「なんとなくわかるよ」
それを聞いたレオンが、
「当ててみ、海王石」
と言った。
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