第12話 実戦

 それからの日々は、修行、修行、修行だった。みどりとすみれはともに海王石の魔法修行を受け、スポンジのように吸収し、ぐんぐん成長していった。また、お互いのことを知り、仲良くもなった。

 

 魔法修行では実技もあれば座学もあった。二人は大きな教科書、人間界では到底与えられないであろうぶ厚い教科書を何冊も与えられた。


「その本はとてもいい本だ。わたしの知っているとても優秀な魔法使いたちが書いている。そこらの魔界の子供が学んでいるのとは少し質が違うんだ。お金で語りたくはないが高価でもある。大切に扱ってくれ」


 みどりとすみれは喜んだ。なぜならその本たちの装丁が大変洒落ていたからだった。まるで外国の本のような、美しいその本たちは、大切にせずにはいられなくなりそうなものばかりだった。


 座学の時はみどりとすみれは同じ一つのテーブルについて、部屋の前の方にある黒板の前にたつ海王石の話を聞くという感じだった。


 みどりとすみれは、切磋琢磨して成長していった。

 すみれに得意なことがあれば、みどりにも得意なことがあるとわかった。また、みどりに苦手なことがあればすみれにも苦手なことがあるようだった。

 それでみどりは少し安心した。


 ある日のことだった。

「今日はじっせんだ。」


 海王石が朝食の席に入ってくるなりそういった。

「闇サンゴが見つかった。北の岬だそうだ。今すぐ回収する。」


 ぽかんとして聞いているみどりとすみれに、海王石は説明した。

「闇サンゴというのは天河石がばらまいた闇の物質の一つだ。もっとも作ったのは歴史にも悪名高き闇の魔法使い石墨(=グラファイト)なんだが。この闇サンゴがどんどん人を病に陥れていてな。それが見つかったんで今から回収しに行くぞ。わかったかい」


 みどりは最近の魔法修行の忙しさに、実際にこの魔界が危機に陥っているという実感を失いつつあったので、突然のこのような情報に少しショックを受けてトーストを食べる手を止めていた。


「じっせんって、戦うってことですか」

 すみれが海王石に聞いた。

「そうだ。敵もいるからな」

 海王石がいった。


「闇サンゴって、具体的にどういうものなんですか」

みどりは聞いた。

「触ると皮膚が黒ずむ。そこからどんどん腐っていく。そして死ぬ。触らなくてもその瘴気のようなものにやられて病気になる。」

海王石は答えた。


「北の岬はわりかし近い。」

 次の質問を予測したかのように海王石は言った。


「さあ、力をつけないと。どんどん食べて」

 突然の実戦の予告に怯えた空気を和ませようとするように、海王石は笑って言ったが、海王石自身が緊張しているのがみどりにはわかったし、すみれも同じようだった。


 喉を通らなくなった朝食を無理におし込んで、みどりたちは外へ出向いた。


 この日も海王石の飛行道具である黒い石の円盤に乗って北の岬に向かった。

すみれはどうやらこれに初めて乗るようなので少し興奮していた。


 空飛ぶ円盤に乗りながらみどりはとても緊張していた。

 敵に出くわしたらどうしたらいいだろう?みんなの足を引っ張ったりしないかな?そもそも、きたばかりの自分たちで、戦うことができるのだろうか?


 「大丈夫?」

 すみれがみどりの顔色をうかがうようにしてそう聞いた。

 その声でハッとしたみどりは自分が弱気になっているのに気がついて、こう思うように努めた。

 

 こういう時に、仲間がいるのは心強い。全部でたった3人だけど、一人よりマシだ。みんなで特訓も積んできた。何より、魔界に来た時からレオンにドゼ、海王石に頼られているのだ。自分に自信を持っていいはずだ。すみれだって一緒なのだ。緊張感を持たないのは良くないことだ。この緊張はきっといい緊張に違いない、と。


 そう思うと、不思議に力が湧いて来て、少しゾクゾク、ワクワクした。

「大丈夫。少し、緊張してただけ。でもこれは良い緊張だから大丈夫」

みどりは声に出してそう言ってみた。

「良い緊張か。良い言葉だ」

 海王石が少し笑いながら言った。

 3人はなんでか知らないけどみんなで笑った。


 北の岬は本当にわりかし近かった。

北の岬に着くと、ある人がそこにいた。そこにいたのは、なんとレオンだった。



 

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