第11話 新しい仲間

 「村崎すみれです。よろしくお願いします」

少女はそういって頭を下げた。

海王石は喋り始めた。

「ついさっきここに着いた。彼女はみどりと同じ人間界出身だが、共に戦ってくれる。すみれ、こちらみどり。昨夜着いたばかりだ。二人とも仲良くな」


みどりとすみれはこくんと頷いた。


みどりはすみれを観察していたが、すみれがとてもきれいなことに気づくのに時間はかからなかった。人間界から来たばかりというように、それらしい格好をしていた。パステルピンクの半袖パーカーと白い段フリルのスカートだ。パーカーのフードのなかは水玉模様があしらってある。とてもかわいい服装だ。


すみれはみどりの方を見ると、右手を差し出してきた。

「どうぞよろしく」


みどりも右手を差し出した。

「よろしく」


 その日から共同での魔法修行が始まった。

 すみれの好きな色は紫色で、海王石から杖を受け取った彼女は風の魔女となった。


  3人は家の外の広い庭へ出ていた。

「まず最初に、二人にどれくらいの魔力があるか確かめたい。可能な限り念を込めて杖をふってみてくれ。まず、みどりから。」

海王石はそう言った。


 みどりはこう思った。そんなこと言われても、どうしていいかわからない。そもそも、自分に力なんて本当にあるのか?もし杖をふって、なにも起こらなかったら、どうしよう?

そう思って何もしないでいると、海王石とすみれの視線が痛かった。


 ええい、こうなったらやるしかない!


みどりは杖をぶんと振った。なにか起こってくれと念じながら。


すると、みどりの杖の先から、植物のつるがわっと生え広がりだした。


「な、なにこれ!!どうやって止めるの~!?」


みどりはパニックになった。止めようとして杖をブンブン振った。

「止まれ、止まれ、止まれ!!」

けれども振れば振るほどつるは伸びて来る。ついには自分の腕にまで伸びて来た。

「いや~っ!とまれ~っ!!」


すると、海王石がまた

「はいはい、落ち着いて」

といって両手を叩いた。


すると、杖から出るつるの伸びは止まり、植物は消え去った。


「初めてだったからびっくりしたかい?」

 海王石が聞いた。

「はい、びっくりしました……」

 みどりはまだ胸をドキドキさせながら言った。

「なかなかいい魔法だったよ。怯えさえしなければ実戦での応用に持っていけるだろう。次、すみれ、いってみようか」

「はい」

 すみれは一歩前へ出て、少し深呼吸した。そして杖を構えた。

「集中」

 すみれは自分に言い聞かせるように呟いてしばらく杖を構えていた。

 そして突然、杖を振った。


 それはすごい魔法だった。突如にして大きなつむじ風が舞い起こったのだ。あまりの風圧にみどりは目を閉じた。髪は風に吹かれ上へなびいた。みどりは薄眼を開けてその場の様子を見ると、大きなワイングラス状の白い塊がくるくる移動しながら、庭の生垣に襲いかかろうとしているところだった。

 すみれはというと、右手で杖を構え左手で顔にかかる風を防ぐ姿勢でみどりに背を向けて立っていた。そのためみどりからは顔は見えなかった。


 海王石はつむじ風が生垣に襲いかかりそうになるのを見ると、魔法でほとんど見えない水色の半透明な丸く柔らかい壁を生垣とつむじ風の間にはった。そして、

「よくやった、すみれ。止めてくれ」

と言った。

 すみれは、一瞬、海王石を見て、それからつむじ風を見た。

「止まれ」

 すみれが静かにそう言うと、つむじ風は穏やかに縮んでいった。


「すみれ、よくやった」

 もう一度海王石が言った。

「初めてであんなに大きな魔法を出すとは思わなかったよ」

 海王石は朗らかに言った。みどりもこくんと頷いた。

「わたしも驚いています」

 すみれはニコニコしながらこう言った。

「二人とも、魔法の力は期待以上だ。実戦が楽しみだよ。次はちょっとした座学をしよう。わたしも教えること自体は初心者だから、二人とも気楽に受けてくれ。いい実技だった。」


 それから3人は屋内に歩いて行ったが、その間みどりは落ち込んでいた。すみれと自分とでは力の差が歴然だったからだ。魔法の力の大きさも、その制御力も。


 シャキシャキと歩く海王石について歩くこれまたシャキシャキとしたすみれを追って、みどりは少し遅れてとぼとぼ歩いていた。


 すると、すみれが振り返った。

「楽しかったね」

 頬を赤くして、満面の笑みでそう言った。

 とても感じのいい笑顔だった。

 邪気のない、優越心もない、ただ魔法を使えたことがとにかく嬉しいといった表情だった。


 その笑顔を見たみどりは急に自分が劣っているなどという考えを吹き飛ばされたような気がして、

「うん」

とこれまた笑顔でいった。


二人はこの瞬間に友達になった。




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