第7話 乗車
みどりが美しい光景に見とれていると、どこからか物音がしてきた。
何かが呻くような低い音がする。と思うと、泣き叫ぶようなかん高い音も聞こえてきた。
二つの音はだんだん大きくなり、近づいてきた。音の方に目を向けると、地平線の奥、線路の上に、何かがやってくるのが小さく見えた。みどりはよく見ようと少し線路に近づいた。
みどりが眺めている間に、それはどんどん近づいてきた。ものすごい速さだ。みどりはあまりの速度に身の危険を感じ、思わず後ずさりして線路から離れた。なんだろうこれは?ふつうの列車じゃない。目を見張っているとそれはある地点で速度を落とした。そして、しばらくゆっくりと惰性で進んできて、みどりの目の前に止まった。
みどりはしばらくその乗り物をしげしげと眺めていたが、それがなんであるかとうとう判別できなかった。全体の輪郭がぼんやりとしていて揺らめいて見える。汽車のようだと思っていたら、次の瞬間には電車のようにも見えた。そう思って瞬きしているとその表面は滑らかになり、新幹線のように変わっていたりする。最後には、みどりがまだ実物を見たこともない、漫画や子供向け雑誌の中に出てきたリニアではないかという形にまでなった。ばかな、リニアだったら少し浮いてるはずだ。こんな土の上のレールを走るわけがない。こう思った時、みどりは考えるのをやめた。今日は魔界に行く日だ。なんだって起こりうるんだ。
みどりの目の前で不思議な列車のドアが開いた。中から車掌とみられる男が出てきた。帽子を目深に被っていて、顔が見えない。彼はみどりに手を差し出した。切符を渡せという意味だ。きっと、魔界に行くにはこれに乗らなきゃいけないんだ。しかし、みどりは切符を持っていない。その時、どこからか声が聞こえてきた。
——切符を渡せ。さっきやったやつだ。
びっくりしてみどりは思わずあたりをみわたした。レオンの声だ。どこから喋っているの!?
そうしている間にも車掌はみどりの前で手を差し出していたので、みどりは慌てて何か渡さなければと思った。みどりの手には、安っぽい緑色のメモ用紙の切れ端があった。さっきレオンに別れ際もらったやつだ。おそるおそるみどりはそれを渡した。
車掌はしばらくそれを見ていた。みどりは不安だった。あんなメモ用紙じゃ切符として通用しないのではないかと思った。レオンは切符を渡し忘れたのでは?それか、間違ったものを渡したのでは?
みどりの中で不安は一気に膨らんでいった。もしこれに乗れなかったらどうなるんだろう。この土地は美しいが、一人で取り残されると思うとぞっとする。とても生きていけそうな場所ではない。食べ物や水うんぬんの前に、あまりに淋しくてここにはあまり長く居てはいけない気がする。もし乗れなかったら、レオンとドゼはみどりをきちんと元の世界へ返してくれるだろうか?
みどりの不安をよそに、車掌は紙から目を離すと、みどりに列車に乗るように促した。よかった!レオンは間違ってなどいなかったのだ。みどりは勝手に疑ってしまったレオンに感謝した。みどりは促されるままに列車の中に足を踏み入れた。
中は、ずいぶんあたたかい感じのする場所だった。テレビのCMで見る、サラリーマンのお兄さんが乗っているような電車とは全然違った。中は銀色の鉄や白のプラスチックなどは使われておらず、飴色の木でできている部分がたくさんあった。椅子のシートはえんじ色の厚手の織物だった。席は、二人分が向かい合わせになっている四人席が通路の両側に連なって構成されていた。
みどりに見える限りは、奥の席まで誰も乗っていなかった。
みどりは数ある席のうち、窓際の一つに座った。それから、窓の外の景色がゆっくりと動き出した。みどりは、美しい水溜りたちが後ろに流れていくのをぼんやりと見ていた。こんな綺麗なところに来れたのは本当に嬉しかった。
しかしこれからどこへ向かうのだろう?この列車が動き出してしまったからには、もうそう簡単には後戻りできなさそうだ。
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