第4話 意地

「魔界に行ってくれるか?」


問われてみどりはしばらく答えることが出来なかった。


行けるかだって?もし本当に行けたとして私に何ができるんだ?

こんななんの変鉄もない小学生に何をしろというのか?

悪いやつと戦うとか?

貧しい人々を救うとか?


「私には何も出来ない。できるわけがない!」


その言葉は強い口調だった。半ば自分に言い聞かせているようだった。


「何で行く前からそう言うんだ。」

レオンが言った。


「わかるでしょう!ああいう問題は魔界だけにあるわけじゃない!私の住む世界でだって起こってるんだ。私にはできっこない。」


みどりはクラスメイトの智恵ちゃんの顔を思いだしながら言った。彼女は何も悪いことなんかしてなかった。なのに理由もなく悪口を言われていた。みどりはクラスのみんなと一緒に智恵ちゃんを嫌っているふりをした。本当はかわいそうだと思っていながら、何も出来なかった。助けることなど出来なかったのだ。


みどりの剣幕の裏にある想いをレオンとドゼは汲み取っていないようだった。


「またまた~、謙遜しちゃって」

とドゼ。

「ここに来れたあなただからきっと他の人には無い力がある。きっと大丈夫よ。」


「魔界では人間界からの使者には優秀なサポートがついてる。お前一人で全てをやる訳じゃない。」

とレオン。


「出来ない。もしダメだったらどうするの?なんの役にも立たないよ。きっと殺されちゃうよ。」

こういったとき、レオンがぬぅっと目を見開いて彼の周りに漂うのオーラみたいなのを変えた。次に聞いた声色も低くなっていた。


「じゃあお前は魔界の人達を見殺しにするんだな。自分が失敗して、殺されるのが怖いから。やる前からあきらめて、これから先知らないふりして生きていくんだな。遠くの国の人だから関係ナシって。」


みどりはキッとレオンを睨み付けた。

レオンは顔色ひとつ変えず微動だにしないでみどりを睨み返した。



―そんな言われ方したくない。私がそんな、そんな無神経な人だなんて?

……でもレオンの言うとおりだ。このまま行かなかったら、私は卑怯な人間になる。今までと同じことだ。智恵ちゃんに対してやってきたのと。本当に一生後悔するかも。

 いや、後悔すらしなかったりして。いつの間にか悪いことをしたという意識さえ忘れちゃったりして―


レオンは相変わらず無表情だ。本当のことを言っているという自信があるのだろう。みどりにはそれが悔しかった。涙が出そうになった。


みどりはレオンから目をそらし、ドゼに目を向けた。


「…行ってくれる?」



ああ!この人も腹が立つ!!私の意見をきくふりをして!!この人たちはその気になれば魔法や何かを使えるんだ!!何があってもどうせ私を魔界に行かせるくせに!!上品なふりしちゃって!!!


みどりは覚悟を決めた。


「行く。行ってやる。私はあんたたちが思っているような卑怯な人間じゃない。そのこと証明してやるよ!」


みどりは言いながら自分の心臓が今までにないくらい高鳴るのを感じた。熱い。体中から変な汗が出る。こんなに啖呵を切っておきながら、内心では本当にダメだったらどうしよう?と思っていた。

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