第2話 ドアの向こう
謎に包まれたドアの向こうには二人の人がいた。
部屋の中には小さな丸いテーブルがあり、その回りの椅子に二人は向かい合って座っていた。
二人はそろってみどりを見つめている。
半ば夢心地だったみどりはその視線で一瞬で我に返った。勝手に入ったこの建物は、やはり店などではなかったのだ!なんという恥ずかしいことだろう、これでは不法侵入だ。
みどりはドギマギしてきた。謝らなくては、わけを説明しなくては。
みどりが口を開こうとしたとたん、二人のうちの一人がしゃべった。
「久しぶりのお客さんね」
その声の主はすっと立ち上がってこちらに近付いてきた。女の人だ。フワッとした袖の薄手の服に、ピタッとした黒いテカテカしたスカート。細いヒールの靴で上手に歩いてくる。そしてとても大きな麦わら帽子。つばの上には色とりどりの生花が飾ってある。
女性はみどりのすぐ目の前まで歩いてきて、変なものを取り出した。お姫様が舞踏会につける仮面みたいなものだ。馬鹿に大きい。目の錯覚だろうか。この人、今空中からこれを取り出したような。
女性は仮面を目に当ててこちらを覗いてきた。ずいぶん珍妙な仮面だ。水と油みたいに歪んだ薄いピンクと黄緑の模様が本当に動いて見える。
「林みどり 11才 夕顔町在住」
えっと思わずみどりは声を出していた。
どうして私の名前と個人情報を知っているの?
「この眼鏡をかければ相手の正体を見破ることができるの。まぁ軽くだけどね。」
女の人は仮面を外しこちらに向かって微笑んだ。
「ねえ、レオン、この子なら行ってもいいんじゃない。」
女の人はもう一人の人に向かって言った。
「さあな。弱そうなチビだと俺は思うけどな。どうせ他にいないんだから、そいつなんだろうよ、ドゼ」
レオンと呼ばれた人は不機嫌そうに答えた。すごく態度が悪い。いつの間にかテーブルの上に両足を組んで乗せている。それも靴を履いたまま。
何かこの人嫌だな。
若いその人の髪は黒くて長い。そして深緑のヘアバンドみたいなものをしている。丈の短いデニムジャケットにピタッとした黒いパンツ。金属の装飾がガチャガチャしているベルト。靴はとんでもなくボロボロのスニーカーだった。こんな出で立ちだが、目はとびきり大きくて二重でまつげも長い。髪が長いことも合わさって、この人は性別がわからない感じがした。でもなんとなく男の人だろう。
それよりこの人、今何て言った?私のこと、弱そうとかチビとか言わなかった?しかも、この二人はなにやら変な会話をしている。
「何で初対面の人に罵倒されているのかわかりませんが、間違えてここに入ったことは謝ります。ある店と間違えたんです。すみません。すぐ出ます。」
そういって背後のノブに手をかけようとしたとき、手はノブに触れなかった。何度もまさぐるが、何もつかめない。あれっと思って後ろを見てちゃんとドアノブをつかもうとした。
手はノブをすり抜けていた。いや、ノブが手をすり抜けていたのか。
ぞっとしてみどりは二人を振り返った。
二人は笑っている。
「出ようとしても無駄だよ。お前はここに閉じ込められたから。」
レオンがニヤリとしながら言った。
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