第7話実践練習
元ゲー
7話
アプルボア討伐クエストの翌日、俺達はクエストへと出かけていた。
「今日はなかなかいい連携だな!」
「そうね」
順調に魔物を討伐していく中、俺はあの能力を存分に発揮していた。
「ウト、途中変な動きしてなかった?」
戦闘中一番近くにいる時間が多いカミュは俺の動きに違和感を覚えていた。
俺の能力もきちんと話すべきだろう。連携の面でも仲間としての信頼にも関わるためいつまでも隠しているわけにはいかない。
「最近使い方の分かったスキルがあって、今までは録に使えもしなかったから言わなかっけど大事なことだから言うよ」
俺がそう言うと三人は静かに聞く姿勢を取ってくれた。
俺は能力の詳細をできるだけわかりやすく説明した。流石に転移のことは話していないが。
「それ無敵じゃん!?」
聞き終わってから一番最初に反応したのはリークだ。リゼットもカミュも驚きを隠せないようだ。
「でもそうなるとウトは遊撃手の方がいいんじゃない?」
そう提案したのリゼットだ。リゼットが言うには、カミュを守りつつ遠距離の攻撃が出来るという。
「でも相手に直接干渉できない」
「ねぇ、弓矢とか魔法を相手の背後に出せないの?例えばカミュの打った魔法を相手の真後ろにするとか」
リゼットはいち早くこの能力について理解したのか、俺が思いつかなかったことが出てきた。だが、リゼットの言っていることは実現可能かもしれない。ダメージ要素を相手に当てる原因をつくるだけならば相手に直接干渉しているわけではないからだ。
「やってみる」
「分かった」
俺が決意を固めるとリゼットは返事とともに弓を引き絞った。
弓が向くのは真上。リゼットの手を注意深く見つめその手が離れる瞬間に能力を発動する。
いつもの時間が止まった世界の中で、矢はリゼットの頭上で停止している。このまま能力を解除すれば弓は再び上昇を開始する。その矢の矛先を自分の正面の木に向けて座標を動かす。
木から外れないように木の数センチ手前に矢を配置して能力を解除。
ズガァァン!!
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
能力を解除した途端に矢は目標の木に深々と刺さった。慣性をそのままに至近距離で開放された弓は半分ほどまで木に埋まっている。
全く予想していなかった出来事にカミュとリークは声を上げた。
「やっぱりね」
リゼットは満足がいったような表情でそう呟いた。
「これからはウトが後衛でカミュの援護ね。前衛は私とリークでいいよね?」
「そうだな!」
すぐさまリゼットが案を出しリークはそれを了承した。
新たな陣形で連携が上手くいくかは、意外にも俺の手にかかっているかもしれない。
人知れず重圧を感じている中カミュは
「守り、よろしくお願いします」
と、丁寧に頭を下げた。
「う、うん」
俺が返事をすると、カミュは顔を上げて笑った。
不覚にもドキッとしてしまい慌てて顔を逸らす。
俺は精神年齢二十三歳。高校生程の女の子に照れるなどあってはならない。
自分にそう語りかけるように、もしくは念じるように自制する。
カミュは物静かで多くは語らないが、最近は信用を得たのか会話の回数も増えた気がする。というか年齢差を考えれば俺は年下なわけで別にこっちの世界で青春をエンジョイしても問題ないんじゃないか?
頭の中を一瞬邪念が過ぎるが、不意にカミュに顔を覗かれ現実に戻る。やっぱり犯罪はダメだな。未成年に手出しは無用だ。
俺は少し赤くなった顔をバレないようにしながら距離をとる。
「新しい陣形の確認しないとな」
話題を変えて皆に語りかける。
「そうだな、とりあえず今日のクエストの相手で練習してみるか」
リークが今日のこの後の方針を決め全員で行動に移す。
今日の依頼は迷い木の討伐だ。
〈迷い木の討伐〉
募集要項...二組以下
報酬...四万シル
備考...森の管理人より。最近森に住み着くようになった魔物のせいで行き慣れたはずの森で迷うことが増えるようになった。仕事に支障が出るので討伐して欲しい。
迷い木は単体での戦闘力は非常に弱く、駆け出しどころか一般人でも倒せる程。
しかし、その擬態能力はとても高く、先程の話のように通い慣れた人間でも見分けがつかない程だ。
迷い木は先回りや誘導の魔法で方向感覚を狂わせ弱ったところを根から吸収するという少し怖い魔物だ。
地図さえしっかり見ていれば迷うことはないのだが、通い慣れた人間が地図など使うわけもなくこうして討伐依頼が出されたのだ。
迷い木のは火に弱い。松明を手に持って歩けば直ぐに正体を現す。この時、山火事にならないように注意しなければならない。
迷い木は討伐したけど一緒に森も焼けました、では意味が無いのだ。
今までの生活や森の生態環境に悪影響を及ぼしたのでは一流の冒険者とは言えない。
「迷い木が出たら一度距離を取ってパターンの確認。今日はそれを何回か繰り返そう」
「了解」
今回の陣形の肝は俺。カミュを守りつつ 援護射撃に対して手を加える。
相手の注意を前衛の二人が引き付け死角からカミュの魔法をぶち込む。
作戦は単純だがこれは俺の能力があっての事。この陣形であればカミュの姿が視界に入るためカミュの魔法は防がれる。それを俺の能力で背後からの奇襲に変える。
基本は取り囲む陣形で魔法使いに背を向けさせて打ち込むそうだが、俺達は人数的にもステータス的にもカミュを単体で放置するのは危ないからできない。
魔法使いが必殺の一撃を打ち込む時間を稼ぐというタイプもあるが、駆け出しのカミュにはそれほどの威力のある魔法は無い。
「アジィィィッ!?」
「うわっ!?」
突然リーク横にいた木が騒ぎ出した。迷い木である。
普通の木と全く見分けがつかなかったため反応が遅れた。というかもはや木だ。木以外の何物でもない。トレントという魔物は木に顔が浮かんだような様相だが、迷い木に関しては顔が無い。触覚だけで判断しているんだろうか。
「慌てないで!」
「お、おう!」
リゼットの一言にリークは動揺しながらも答える。
慌てずに陣形を整える。迷い木に攻撃手段はないため今はしっかりと練習出来る。
俺達が陣形を完成させると、迷い木はそそくさと地中から這い出て移動しようとしていた。
「あっ、待て!」
リークが声をかけると迷い木はビクッと身体を跳ねさせて再び地中に戻る。まるでそこには何も無かったかのように静まり返る迷い木と俺達。
「てい」
リークが自分の剣で迷い木を小突く。
「ギィィ!」
迷い木は再びビクッとしてその根から下を現す。
何がしたいんだこいつは。
迷い木はもう逃れられないと悟ってか今度は構えを取る。構えというか正面?をこちらに向けているようだ。
「よし、まずは一回目だ。ズバッと決めようぜ!」
迷い木はスピード、攻撃力、防御力、魔法のどれにおいても強みがない。魔物かと言われると微妙なラインだ。なので今回、リークとリゼットの物理攻撃は当てない。あくまで牽制だ。二人も普通の魔物相手には戦える程度の実力があるため、下手をすれば迷い木が死んでしまう。
今回の目的は俺の能力が実戦で機能するかの確認のため、二人が殺してしまったのでは意味が無い。
「カミュ、魔法頼む」
「うん!」
俺の声に返事をすると、カミュは短い詠唱で魔法を構築する。
一等級魔法、火球。初級の魔法で一番最初に習う魔法の一つらしい。俺もそのうち使えるようになりたいが出来るだろうか。カミュは火が適正だったらしく火球を覚えたそうだ。俺の適正はなんだろうか。デバフ特化とかはやめて欲しい。 と、そんなことよりも今は集中しなければ。
「火球!」
カミュの振るった錫杖の先から炎の玉が飛び出す。その瞬間に俺も能力を発動する。
もうこの感覚も何度目だろうか。もう発動してから解除するまでの時間が体感だが短くなってきている。
俺の中では三秒。実際は止まっているから一秒も進んでいないけど、使えば使うほど慣れていく。
ゴォォッ!!
迷い木の真横からカミュの放った火球をぶつける。火球は忽ち迷い木を飲み込みその命を燃やす。
「成功だな!」
「ウト、ナイス!」
俺は奇襲が成功すると、二人はハイタッチをする。
「迷い木だけどいい感じだな」
「ウトの感覚としては発動までの予備時間は必要?」
「いや、構えてればすぐに使えるよ」
「改めて聞くと反則よね...」
リゼットは三人の中で一番能力について理解しているため、その異常性がよく分かっている。
「多分だけど迷い木だともう練習にならないと思うよ」
「そうか、なら明日からは普通の魔物討伐の依頼に戻してもいいな?」
リークの問いに全員頷く。
俺達の最初の連携は無事に終わり、俺が支点となる戦術もはっきりとしてきた。これからはこの連携をさらに高めていくことになる。
「皆、これからもよろしくお願いします」
俺はそう思うと口に出していた。
「おう!」
「どうしたの急に?」
「ウト、こちらこそよろしく」
少し笑われながら、それでも三人は返事を返してくれた。
俺はこいつらを守りたい。いや、守らなきゃならない。
異世界に来て初めて目標らしいものができた気がした。
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〈ステータス〉
宇都光太郎 15歳 男 Lv6
職業:冒険者
体力57
敏捷57
筋力56
耐久50
魔法50
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
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