第6話やはりチート性能でした
ゴブリンを討伐した翌日、俺達は昨日と同じように依頼を受けていた。
「そう言えばリーク達はゴブリン以外に何を倒したことがあるんだ?」
「そうだな、人型だとゴブリンだけだな。後はあまり強くない街付近の魔物ばかりだ」
リーク達の慣れた動きに疑問を持ったが本当に新人なんだな。
「でも、動きが慣れてた感じだったぞ?」
「俺の親父猟師だから、子供の頃によく教えられたんだよ」
「私はこの街に来てから師匠に教わった」
「へぇ、カミュは?」
「私は...」
「カミュは街生まれの街育ちだからな。この中で一番頭が良い!」
カミュの答えを奪って何故かリークが答えたが、なるほど。猟師の子供であればあの戦闘慣れも頷ける。
「それよりも早く依頼を終わらせよう。ウトが午後は予定があるらしいから」
「悪いな」
リークの言う通り、今日は予定がある。そのために依頼は午前中で終えれるようなものを選んでいる。
〈アプルボアの実の収穫〉
募集要項...Dランク以上
定員...上限なし
報酬...四万ゴールド
備考...この時期になるとアプルボアの体には実がなる。その実を五十個収穫してきて欲しい。
今回の依頼は、アプルボアという体に林檎のような果物を付ける猪から果物の収穫だ。イメージとしてはポ〇モンのド〇イトスを想像するとわかりやすい。
アプルボアの実の収穫なので基本的には捕獲して収穫、リリースの流れだ。しかし、アプルボアの身は甘く、肉の方も売れるため、数体は討伐して帰る予定だ。
アプルボア一体当たりに林檎、アプルが四個から五個。五十個なので大体十頭の捕獲。内五体は討伐解体して納品する。肉の方の依頼も受けてきたので一石二鳥だ。
ちなみに肉の方は五頭分の討伐で八万ゴールドだ。今日だけで十二万ゴールドも稼げてしまう。味も内容も美味しい猪だ。
過去に乱獲されて数を減らしたことが原因で商業組合とギルドで規則を決めたらしい。
一年間に討伐していい数が決まっているそうで、俺達冒険者もその数を超えて討伐した場合にはペナルティが発生するので注意が必要だ。
アプルボアは単体で行動している。朝から昼にかけては寝ている個体が多く、捕獲にはもってこいだ。たまに起きているやつもいるがそういう時は見逃す。眠っている個体を探す方が効率的だからだ。
個体の戦闘能力はそこまで高くないが、文字通りの猪突猛進を喰らえば骨を何本かは折られるだろう。横の動きと停止運動には弱いため、苦戦を強いられることは少ない。
「カミュ、捕縛」
「うん」
寝ているアプルボアにカミュが魔法で身動きを封じる。アプルボアの眠りは深く多少縛ったくらいでは起きない。
カミュの魔法がかかれば後はアプルを取るだけだ。一応起こさないように細心の注意を払いながらアプルを収穫する。
これを繰り返し俺達は順調にアプルを集め予定時刻よりも三十分も早く依頼を終わらせた。
「お疲れ!」
リークは袋から小銭を分配する。
一人あたり三万シル。日給、それも午前中だけで三万シル。現代の日本では考えられない高給料だな。
受け取った三万シルを自分の財布に入れた。他の二人も嬉しそうにほくほく顔である。
「ウトはこの後予定があるんだろ?」
「ああ、悪いな、合わせてもらって」
「気にすんな、仲間だろ?」
「それに今日はいい稼ぎだったしね」
「ありがとう」
三人に俺を言って俺だけギルドを後にする。
昼食も食べたいが、今はやるべきことがある。
俺は訓練場には行かず、街の外へ出る。
門から少し離れた外壁付近で剣を構える。
今からやるのはあの能力の分析と使い方の練習だ。ゴブリンに襲われた時、奇跡的に一度だけ発動したバグ修正の能力。
不思議にも、あの出来事の後からどうすれば能力が発動するか分かる。
前頭葉が熱くなるようなそんなイメージで念じると能力が発動し、世界の時間が止まる。風で靡いていた草木も空を飛んでいる鳥も自分の体さえも動かない中、思考だけが世界を置いて動き続ける。
能力が発動した後は自分の意思ひとつで全てを自由自在に動かせる。
まずは自分の位置を10メートル先に動かし能力を解除。構えていた剣を勢いよく振り下ろす。後ろを振り返ると、動いた痕跡はなく、しかし自分の位置は確かにかわっている。
自分の次は物だ。自分以外の物はどの程度動かせるのか、距離は?範囲は?この能力については分からないことだらけである。
最初は無機物、次に生き物。試せるものは全て試した。
生き物に関しては自由に動かせた。虫みたいな小さな物は目で捉えることが出来れは動かすことは可能。例えば自分の位置から遠い位置にいる小さな虫は見えない。そういう場合は干渉できない。ただし、近くにいる速くて見えない場合は問題ない。この能力を発動している間は時間が止まるからだ。
他には、木のような地面に埋まっている物に関しては見えている部分だけ動かすことが出来る。おかげで切り株をひとつ作ってしまった。幹の方はどうしよう。
「そうだ」
ひとつ思いついたことを試す。
能力を発動して幹を動かす。イメージは真っ二つに割れるイメージだが果たして上手くいくだろうか。
「ダメか...」
今試したのは物体に直接ではなく能力を経由して干渉しようとしたのだが、やはり最後に手を下すのは自分でなければならないらしい。
今試したことから、時間が止まっている間に相手を切るなどの行為は出来ないことが証明された。
「よし、最後だ」
最後にやるのは見えてない位置への転送。つまり擬似的な転移だ。これが成功すれば移動の手間がうんと減る可能性がある。
しかし、どこに飛ぼうか。見えない場所となると街の中だが、もし成功してら街の中に急に人が現れることになる。流石の異世界人の俺でもそんなことをすれば騒ぎになるのは目に見えて分かっている。
とりあえず壁の反対側に転移してみることにした。外壁付近であれば人通りも少なく問題ないと判断した。
先程と同じように能力を発動し自分の座標を変えようとする。しかし今度は上手くいかず変化は訪れない。何故だろうか。一度能力を解除し状況を整理する。
やはり視認範囲でしか動かすことは出来ないんだろうか。
いや、神様から貰った能力がそんな中途半端なわけが無い。もっと良く考えろ。前世の知識を思い出せ。アニメの主人公ならどうする。
視認範囲、座標指定、物体干渉...
「座標か!?」
長いような短いような逡巡を経て、俺はひとつの仮説を思いついた。
ヒントはドラク〇のルー〇だ。一度行ったことのある街になら飛べるという魔法。
大事なのはイメージだ。なら一度行ったことのある場所なら行けるはず。
俺はマップを開き自分の位置と行きたい場所を確認した。
「よし!」
頭の中のイメージを整理し以前見た光景をより強く意識する。鮮明に思い出される記憶は頭の中で像を描き、能力を発動する。
「うわっ...」
一度視界が暗転し次の瞬間には太陽の光が視界に飛び込んでくる。
目の前に広がる景色は外壁付近の平野ではなく、見慣れた宿の一室だった。
「成功だ」
そこは紛れもなく毎日を過ごした自分の部屋だった。
試しに他の場所への転移もやってみたがどれも失敗しなかった。
能力について分からないことだらけだったものが、今ではとても頼りになる能力だと分かって一安心した。後はこれを戦闘において使い慣らしていくだけだ。
──────────────────
〈ステータス〉
宇都光太郎 15歳 男 Lv5+1
職業:冒険者
体力57
敏捷56+1
筋力56
耐久50
魔法50
アプルボアとの戦いでステータス上昇。
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます