第5話チート...?
元ゲー
5話
目を瞑った。後は身体を切り裂く剣が鮮血を迸らせるだけだ。
「......?」
しかし、いつまで経っても訪れない痛みに俺は不思議に思って目を開けた。
「なんだこれ!?」
目を開くとそこには剣を振り下ろそうとしているゴブリンが空中で止まっていた。
身体は動かないが何故か視界は回る。背後には同じように動きを止めたゴブリンとリーク達。
「なんだよこれ...」
意味が分からずどうすることもできない。身体は動かないのに頭は動く。
「ステータスオープン」
俺は何かの状態異常じゃないかと思いステータスを開く。
―――――――――
宇都光太郎 15歳 男 Lv3
体力54
敏捷54
筋力54
耐久50
魔法50
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
“発動中”
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
―――――――――
スキルの欄に一番謎だったスキル、バグ修正に“発動中”という文字が着いていた。
「これはバグ修正の力だったのか」
原因が分かると自然と落ち着いてくる。
しかしどうすればいいんだろうか。バグ修正と言うからには何かを変更すればいいんだろ。
考えられる可能性としては、巻き戻しや逆再生、後は事象の変更か...
試しに頭の中で今の三つを念じてみる。
「当たりか」
今念じてみたのはその三つだが、事象の変更が当たりのようだ。
試しに足元の石を違う場所に移すように念じると、石はしっかりと移動していた。次はゴブリンに使ってみる。
「ゴァァァ!」
「ウト!」
ゴブリンとカミュの声が同時に聞こえた。
「え?」
ゴブリンの位置を変更した途端スキルの効果が切れ世界は再び動き出した。
ゴブリンは俺の正面十メートルの距離に離してみた。ゴブリンの振り下ろした剣は空を切り、カミュとゴブリンは頭に「?」を浮かべている。
「ウト、大丈夫?」
「うん、何とか」
ゴブリンも訳が分からないといった風でもう一度切りかかってくる。
今度は奇襲ではないので、冷静に剣で受ける。
カキィィン!!
金属のぶつかり合う音が間近で発生し鼓膜を揺らす。
超怖ぇぇぇ!!
目の前で火花を散らす剣を盾にしながらゴブリンの攻撃をいなす。
「ゴァァァ!」
格下だと思ったのかゴブリンの攻撃が一層激しさを増す。
「ウト下がって!」
カミュの掛け声によって俺はゴブリンから距離を取る。その瞬間に頭上を火球が通り過ぎる。
「熱っ!?」
熱の余波を肌で感じながらゴブリンと正対する。
ゴブリンは火球によって燃え移った火を消すのに躍起になっている。
「うりゃ!」
ゴブリンの意識がこちらに向かないうちに仕掛ける。振り下ろした剣はしっかりとゴブリンの頭を捉えた。
「よし...」
動物とは違う、気持ち悪い感覚を手に俺はゴブリンを初めて倒した。
「ウト、ナイスガッツ!」
「ナイスファイト!」
いつの間に終わらせたのか、リークとリゼットが俺を労ってくれる。
「ウト、お疲れ」
そこにカミュも加わりパーティの損害を確認しあった。
その後の帰路は特に異常はなく、無事に街に辿り着いた。
ギルドではリークが代表して依頼完了報告をする。その間、俺達は隣の食堂で料理を注文してリークを待つ。
ゴブリンとの戦闘があったせいで予定よりも帰る時刻が遅れたがそれでも日が落ちる前には帰ってこれた。
「よし、ウトの歓迎パーティーだ。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
リークの音頭でコップを掲げ少し早めの夕食に四人揃って舌鼓を打つ。当然飲み物は酒ではないが。
「上手い!」
リークは塩茹でにされた豆に手をつける。
テーブルは長方形の四人掛けで、俺達はひとつのテーブルに並べられた料理を思い思いに食べまくる。
「ここの料理はいつ来ても美味しいよね」
「何より素面で食べれるのがいい」
この料理を食べているとお酒が欲しくなるのは俺だけだろうか。他の三人は特に酒を欲しがる様子がないので聞いてみた。
「リーク達は、酒飲まないの?」
「え、いやぁちょっとね?」
俺が質問すると三人揃って目を逸らす。何かまずいことでも聞いたのだろうか。
「いや、ウトは仲間なんだし隠し事はなしでいこう」
リークが覚悟を決めたといった面持ちでそう言った。
「実はな、俺達酒が弱いみたいなんだよ」
「正確にはリークと私だけだけどね」
リークの説明にリゼットが補足をした。それをカミュは苦笑いで見つめている。
話を掘り下げると、コップ二杯の蒸留酒(アルコール度数十パーセント)で二人ともダウンしてしまったらしい。唯一酒が強かったカミュが二人を抱えて宿に帰ったと。何でもパーティ結成を祝して酒場で宴を開いたのだが、ハメを外して酒を注文したらこうなった。それ以来二人は禁酒をしているという。
「そうなんだ...」
「でも、俺達に遠慮しないで酒は頼んでもいいからな」
少し同情した視線を向けているとリークがそう付け足す。もちろん遠慮なんてしない。前世ではそれなりに酒は強かったからな。上司と朝までハシゴしたこともあるし。前世の話はどうでもいいか。今はこの身体が酒に強いかが問題だ。今度試してみないとな。
こうしてお互いのくだらない秘密を暴露し合いながら、とても楽しい食事を摂ることができた。
「ふぅ、食ったな」
「ご馳走様でした」
「「「?」」」
俺が手を合わせているのを三人は何をしているんだ、といった感じて見てくる。
「俺の故郷の風習で、食後はこうして感謝するんだ」
「へぇ、ご馳走様でした。こうか?」
リークが真似をして聞いてくる。他の二人もリークと同じように手を合わせていた。
「いや、別に真似しなくていいぞ」
「やってみただけだ、宗教のお祈りほど長くないのがいいな」
リークは良くも悪くも無宗教なんだろう。この街ではどうかとも思うが、他の二人も似たようなものらしい。
「よし、明日からまた頑張ろう!」
リークが締めくくり食事会はお開きとなった。
リークはギルドの宿に、リゼットは女性専用の宿があるらしく観光区の方へ、カミュは姉の家が居住区にあると言うことなのでギルドの入口で解散となった。
俺とリークは同じ宿だが俺はこれから風呂に行かねばならない。リークは宿の裏で水浴びで済ませると言っていた。
仕方なく一人でお風呂に向かう。
俺が八日間の依頼、もといバイトをしている時に発見した異世界式公衆浴場。
あれは俺が迷子の猫を探している時のことだ。
「はぁ...こんな広い街で一匹の猫を見つけろとか無理難題すぎる」
俺は迷い猫捜索から五時間が経過した時、そう文句を口にした。
諦めたい気持ちと諦めきれない貧乏魂がせめぎあい辛うじて俺の身体を動かしていた。なぜなら今回の報酬は五万ゴールド。今のところはお金を稼ぐのが目的の俺としては最高の依頼だと思った。
それがまさかこんなにハードだったなんて。
今は街の西、観光区で猫を探している。猫の模様は虎柄で、茶色い毛。そして高級感溢れる見た目らしい。はっきり言って最後のはヒントにならない。高級感溢れる猫ってなんだよ、とも思わなくもないが相手は依頼主、下手にでなければ。
観光区を血眼になりながら彷徨(うろつ)いていると、ある建物が目に入った。
観光区に入ってからそろそろ一時間。今自分の位置を把握出来ていないが、恐らく観光区で一番大きな通りのどこか。
観光区なのに奥行のある造りの前庭。その奥には神殿に似たような建造物。入口までは程よい距離で、庭には花が咲いている。
何よりも驚いたのは公衆浴場と書いていることだ。
「テルマエ・〇マエか...」
俺は思わず呟いてしまった。
日頃のバイトの疲れと、風呂がないという悪環境にストレスも溜まっていたことから俺は迷わず中に入った。
古代ローマの風呂がどうかは知らないが、日本の銭湯とは違った雰囲気の風呂だった。しかし、大浴場は広く疲れを取るには十分だった。
しかも、一回の入浴で三百ゴールドと割安だ。風呂に入ってる途中にたまたま隣になった人に聞いたのだが、この国の人達は結構な頻度で風呂に入るらしく、居住区にも商業区にも公衆浴場はあるらしい。
話によれば前国王が無類の風呂好きで、全区の公衆浴場の設置を一番最初に取り組ませた、と。
ナイスです、国王様。
既に亡き国王を褒めつつ俺は風呂を楽しんだ。一時の幸せに仕事のこともすっかり忘れのぼせるギリギリまで風呂に入った俺は、
「やべ、猫探しの途中だった」
大事なことを思い出した。俺は急いで捜索に戻らなければと意気込んで外に出たのだが意外な事実が起こる。
「ニャー!」
ストレスと疲れが緩和されたことによるものなのか、はたまた俺にも幸運が舞い降りたのかどちらか定かではないが、あの高級感溢れる猫が俺の足に擦り寄ってきたのである。外見的特徴も一致しており、何よりも高級感に溢れている。あの人のヒントはバッチリ特徴を捉えたものだった。
俺は目の前の猫を抱き抱えて依頼主の元へ届けた。猫は抱かれている間、一度も暴れずとてもいい子で可愛かった。
話しが長くなったが、そういう経緯で見つけた公衆浴場を俺は今も毎日欠かさず通っている。
こうして、俺の初めての実践は無事に終わり、今日も一日の疲れを癒すために俺は風呂に入った。
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〈ステータス〉
宇都光太郎 15歳 男 Lv3+2
職業:冒険者
体力54+3
敏捷54+2
筋力54+2
耐久50
魔法50
ゴブリン戦でステータス上昇。魔物との戦いは経験値が鍛錬よりも多く貰える
(理由:魔物を倒した時に経験値が発生するため、訓練で殺し合いはしないから)
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
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