第4話初めての冒険
元ゲー
4話
「こちらがDランク冒険者の冒険者証です。大事にしてくださいね」
「ありがとうございます」
お爺さんの倉庫の掃除から始まりおよそ八日。俺はとうとうDランク冒険者へとランクアップを果たした。
ステータスも微々たるものだが上がってたりする。
思えばこの数日間本当に大変だった。ワードの手伝いのような筋肉系の仕事もあれば、迷い猫の捜索のような走り回る依頼もあった。他には失くした結婚指輪の捜索、引越しの手伝いetc...
本当に大変だった。
俺はついに手に入れたDランクの冒険者証を見てニヤつく。Dランクからは魔物の討伐クエストが発生し始める。言わばここからが本番だ。本当の意味で冒険者になったと言っていい。
Dランクの冒険者は青銅色で、磨かれた光沢の中に自分の名前が掘られている。ちなみにEランクの冒険者証は白色。そこらからランクが上がるごとに青銅色、銅色、銀色、金色。Sランク冒険者は黒になっている。この色の意味は、Eランクはこれからランクがあがることに期待を込めて何色にもなれる白、逆にSランクは全ての色に染まらない唯一無二の存在で黒だ。
冒険者証はステータスプレートのような仕掛けはなく、自分のランクを表すだけのものだった。ステータスプレートのような物はそう簡単に作れないのかもしれない。
俺は冒険者証を大事に麻袋にしまい込んだ。この麻袋は既成のものを買い、俺が布と糸でアレンジを加えた特注品だ。チャックはないがボタンで閉めれるので中身が落ちる可能性がうんと減った。
そして今日は俺が初めて冒険に出る日だ。剣はワードに貰った汎用剣がある。問題は装備だ。この八日間で貯めたおよそ十五万シル。これで軽装でもいいから防具を買うつもりだ。
そのために俺は再びワードの工房を訪れていた。
「ワードさーん!」
「おお!ウトじゃねぇか、どうした!」
相変わらずバカでかい声でワードが返事をする。前と同じようにワードの元へ行き事情を説明する。
「防具ねぇ...あっ」
ワードは何か閃いた様子で備品庫からひとつ箱を持ってきた。
「これは俺んとこの見習いが試作した防具なんだがな。ライトアーマーつって要所だけを守って動きやすさを重視した装備なんだ。駆け出しならまずはこれだな」
ワードから箱を受け取り中身を確認する。取り出して身体の前に持ってくると、サイズがかなりピッタリだった。
「お前は結構平均的な背格好だからな。それならサイズも合うんじゃないか?」
「はい、ピッタリです」
「本当はあまり売らないんだがな、お前さんの装備を今から作ろうと思うと時間がかかっちまう。そこでこいつだ。このライトアーマーを使って感想を言ってやってくれ。見習いには他人の評価ってもんが一番必要だからな」
ワードは厳しい人間...ドワーフだが弟子思いのいい師匠のようだ。
「それを使っている間にお前の装備を作ってやる。だからそれまではそれを着とけ」
「いいんですか!?」
「ああ、金はどうせ装備を作るんだ、その時でいいよ。ちなみに予算はどんくらい用意してる?」
「一応十五万シルです」
「そうか、なら十万シルで装備一式作ってやる。それまではそれを着とけ。ただし、必ず使い心地を伝えることだ」
「分かりました。その任務、確実に果たしてみせます!」
何だかワードには世話になりっぱなしのような気がする。防具も手に入れてしまったし、本当にいいんだろうか。
ワードに十万シル払いその場を後にした。さすがに防具を貰っているから前払いでお願いした。
俺はとりあえず街の外に出てみることにした。
街の外に出れば魔物がうじゃうじゃいる、という訳では無い。魔物にも生息地というものがあるんだ。街道や平原みたいな目立つ場所にはあまり魔物は近寄らなかったりする。だがらドラク○みたいな状況にはならないから安心して街の外に出られる。
「練習してみるか」
俺は新しく貰った装備と剣の使い心地を確かめることにする。特に剣に関してはド素人な俺だ。いきなり戦闘に入りでもしたら一分ともたずに死んでしまうだろう。神様から貰ったバグ修正の力も未だに使い方が分からず、なんなら発動すらしてない。絶対にハズレスキルだ。
神への不信感を募らせながらも剣を握る手に力を込める。
「はっ!」
思ったよりも軽い。肉体労働をしたおかげで筋肉が少しついたのかもしれない。ライトアーマーも自分の動きを阻害することなくとても動きやすい。
「凄いな、ワードの工房の人達は」
改めて、ワード含め工房の人達に尊敬の念を抱く。
その後も何度か素振りをしてみたが、武器も防具も驚く程に身体に馴染む。
「どうしよう、素振りだけじゃ上手くいってるか分からないな」
数秒考えて、俺は衛兵を頼ることにした。もしかしたら訓練施設とかがあるかもしれない、という俺の予想は見事に当たった。
衛兵の話を聞くと、ギルドが所有している訓練場が街の西門付近にあるらしい。
そこは冒険者だけでなく誰でも利用できる施設で、十分あたり百シル。一時間だと五百シルで借りられるそうだ。
中には模擬戦用の部屋や朴人形、丸太、戦闘用ゴーレムもあると。
ちなみに戦闘用ゴーレムは自分のレベルに合わせて相手の力量を調節出来る。そのため、戦闘用ゴーレムはいつも人気だという。
俺はとりあえず丸太に布を巻き付けた動かない的で練習することにした。
相手は丸太なので真剣は使えず、借用した木剣を使う。動かない的とは言えイメージは大事だ。俺はとりあえず前世の剣道を思い出す。中学の頃に三ヶ月だけ所属していた剣道部の動きをそのまま実行する。
「はっ!はっ!はっ!」
面、胴、小手と連続で打ち込んでいく。
「意外と体は覚えてるもんだな」
久々の動きに、しかし身体は思うように動くことに少しだけ驚いた。
「いい打ち込みじゃねぇか」
「!?」
突然声をかけられて肩を跳ねさせる。
「どうも」
とりあえず声をかけてきた人物に返事だけ返す。見たところ今の俺よりは年上っぽいな。十七歳くらいだろうか。イケメンで我の強そうな青年が木剣を片手に佇んでいた。
「ちょっとやめなよ、この人困ってるじゃん!」
すると、青年の横からひょっこりと女の子が顔を出した。明るい茶髪をポニーテールにしている。
そのさらに後ろには魔法使いと思しき女の子。黒っぽい外套に錫杖、薄紫の髪は目元を隠している。
「俺はリーク、Dランク冒険者だ」
リークと名乗った青年はそう言い冒険者証を見せてくる。他の二人も同じように冒険者証を翳し自分の身分を明かす。
「宇都光太郎です。同じくDランクです」
俺も三人に習うように自己紹介をした。
女の子の方は茶髪がリゼット、魔法使いがカミュという名前らしい。
「それで、なんの用でしょうか」
「いや、見ない顔だなと思って新人かどうか確認しに来た」
「ごめんね、こいつ言う事聞かないの」
なるほど。このパーティの力関係はだいたい分かっぞ。分かったんだがこれから俺はどうすればいいんだろう。ここでまた訓練に戻るのはなんか違うと思うし、この青年もまだ何か言いたそうにしてるし。
どちらから声をかけるかお互いが迷っている空気の中、空気の読めないだろう人物が口を開いてくれた。
「ウト、俺達のパーティに入らないか?」
「ぅえ!?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったが、他のふたりはこうなることが分かっていたようにうんうんと頷いている。
「あの、戦闘経験ゼロですけどそれでも大丈夫ですか?」
「俺達もそんなに戦闘経験がある訳じゃない。それに新人は単独行動しがちだから死亡率が高いって受付のお姉さんが言ってた。俺らのパーティもまだバランスが悪いから人手が欲しいんだ」
そういうことか。俺は単独行動を避けつつ戦闘経験が積める。こいつらは足りない人数を少しでも埋めたい。お互いの利害は一致してるという事だな。
「分かった。とりあえず一週間お試しってことでどうだ?」
「いいのか!?」
リークは俺の返事を聞くと嬉しそうに俺と肩を組んだ。鬱陶しい。
他のふたりもほっとしたように胸を撫で下ろしていた。
「よろしくなリーク」
「ああ!こちらこそだ、ウト!」
こうして新人Dランクパーティに加わった俺は人生で初めての実践に赴くことになった。
リークたちとはそこで別れ次の日から共に行動することになった。
ギルド運営の食堂と宿を利用するのはいつもと変わらないが、この八日間で俺の生活に変化があった。それは、観光区にある公衆浴場だ。一般の平民でも利用できるほど安くそして広い。日本人としては異世界で風呂に入れることに感動を覚えないわけが無い。実は毎日通ってたりする。
俺はもうすっかり虜になってしまった異世界版銭湯で疲れと汚れを落とし、きれいさっぱりした状態で眠りにつく。
柔らかいベッドと適度な疲労による深い眠りへの誘い。悪魔的なまでのコンボに熟睡は避けられない。
睡眠という楽園が待つ世界へと俺は意識を投げ出した。
「おっす!」
「おはよう!」
「おはようございます」
「...おはよう」
三者三様の挨拶をする彼らに俺は静かに返事をした。なんで彼らは朝からこんなに元気なんだろうか。俺は日本での生活感が抜けずに、やはり朝は弱い。これもそのうち改善しなければならない。
現在の時刻は午前の九時。
リークたちと挨拶を済ますとそのまま街の外へ向かう。リークたちが昨日すでに受注した依頼でジャックバットという蝙蝠のような魔物の討伐らしい。
〈ジャックバットの討伐〉
募集要項...Dランク以上
報酬...四万シル
備考...街から東の街道の近くにある森。そこに住むジャックバットを討伐して欲しい。荷車を引く馬が嫌う音を出すから迷惑しています。商業組合より。
馬がそこを通りたがらないのは商人にとっては痛手だろう。それでこんなに報酬が高いのか。商業組合からの依頼ということは商人達が月に払っている会員費から払われているわけか。中々正当な金の使い方だなと、商業組合に少しだけ感心しているとパーティの方は陣形や連携の話になった。
「俺は前衛でカミュが後衛、リゼットが中衛で弓が使える。ウトは?」
「俺は、戦闘経験がないからな、とりあえずは前衛かな。剣だし」
「そうか、なら俺と一緒に前衛だな」
「そのうちヒーラーも入れたいね」
リゼットの言う通りこのパーティにはヒーラーがいない。怪我をすれば治すのは各自の応急グッズ。しかしヒーラーがいればその応急グッズの分だけ荷物を減らすことが出来る。魔法による治癒というのはそれだけ効果が大きいのだ。
「私に光魔法の才能があれば」
「そんなことないよ、カミュは後衛として十分すぎるくらいだから、自信持って!」
このパーティでカミュはどちらかと言えば悲観的でリゼットとリークがプラス思考。危険な時にはカミュが二人を冷静に説得するんだろうな。リゼットとリークはアホの子みたいだし。この中で一番のアホは確実にリークだな。
そんな失礼な考えにリークが気付くはずなく、俺達は無事に森へと到達した。街からは歩いて二十分の所で、街道が森にさしかかった。
ジャックバットは蝙蝠のくせに昼行性で昼間は森の中を飛び回っている。直接的な攻撃はしてこないそうだが、蝙蝠特有の超音波で相手のことを不快にさせるという特徴を持つ。攻撃の手段は超音波だけだが、その音が実は厄介。集団で行動するジャックバットは輪唱してその音量を上げていく。最悪鼓膜が破れることもある。気絶したら最期、あとは全身の血を吸われミイラになるだけだ。
なんて恐ろしく迷惑な蝙蝠なんだ。
俺達は周囲を警戒しつつ森の中を散策する。森の中は鬱蒼と木々が生い茂り、足元は少しぬかるみ、木の根っこもあり歩き辛い。
「ジャックバット攻略の定石は炎系魔法で奇襲を仕掛けて、それで打ち漏らしは各個撃破だ。皆気を引き締めていこう」
リークが全員に確認をとり、その後俺達はひとつの群れを発見した。
群れの総数は六匹。今は木の枝に並んでぶら下がり、超音波を発している。
「あれは何をしてるんだ?」
「ジャックバットたちはああやって周囲の他の群れと情報を交換してるの」
リゼットが俺の質問に答える。カミュは低級魔法の《火球》の詠唱を済ませ待機状態だった。リークの合図ひとつでいつでも戦闘に入れる。
「よし、いくぞ。俺とウトが五メートルの距離に近づいたらカミュは魔法をぶっ放してくれ」
リゼットをカミュの護衛に残し、弓で遊撃できるように準備だけしてもらう。カミュの魔法で全滅が一番最高のシチュエーションだが、現実はそう上手くは行かない。
俺とリークが距離を詰め終わると、カミュが待機していた魔法を放つ。
「燃えろ!」
すでに詠唱を終えていた魔法はカミュの持つ杖の先端から勢いよく射出された。
「キィィィーー!?」
最初に火球に気づいたジャックバットの一体が飛び立ち、それに遅れるように他のジャックバットも木の枝から離脱した。
「キィッ!キィッ!キィィィ!」
逃げ遅れたジャックバットの悲鳴が森の中に響く。
カミュの魔法で倒したのは四匹。上々な結果だ。あとの二匹を俺とリークが切り落とし、その場に生きたジャックバットはいなくなった。
俺の初戦は綺麗なまでの完勝で幕を下ろした。さすがに、一匹の蝙蝠も殺せないような貧弱小僧ではいられない。
俺は、上手く剣を扱えたことに少々安堵した。
その後も順当にジャックバットの群れを狩り続け、開始からおよそ三時間で目標の三十匹に到達した。
「結構深くまで入ってきちゃったな。今日は目標にも届いたし早めに帰ろう」
リーク達と周囲を確認して、帰りは行き以上に警戒を強めて帰還する。帰るまでが修学旅行...じゃなくて冒険だ。
「しかし、ウトが入ってくれて良かったよ。今日は前よりも全然やりやすかった」
「そうねやっぱり前よりもリークの負担が減ったから攻撃に余裕が持てるようになってた」
「ウトさんは、とても役に立ってます!」
三人から褒められどうも調子が狂ってしまう。
「照れるなぁ」
俺は正直な感想を述べた。
今はリークと俺が並んで、殿はリゼット。3人の間にカミュが守られるような陣形で森の中を進んでいた。
感知系のスキルを持つリゼットが最後尾で周囲の警戒をしてくれているため、奇襲などの心配は大幅に軽減されている。
「三人もすごい連携だった。正直羨ましいくらいに」
「ウトも慣れればできるようになるさ!」
リークがまたも肩を組んでくるが今はクエスト中。何が起こるかわからない中で警戒を怠ってはならない。その忠告をしようとした時、狙っていたかのように魔物が現れた。
「ギィイヤァ!」
「どぅわっ!?」
リークは間一髪でその魔物攻撃を回避する。
見た目は全身か緑がかっていて、体躯は小さく、小学生くらいしかない。だが、その見た目は可愛さとはかけ離れた醜い姿をしていた。
ファンタジー系ゲームや漫画でお馴染みの最初に戦闘を経験するだろう人型の魔物。そう、ゴブリンだ。
その数は三匹。数の上ではこちらが有利だ。しかし、リーク達の表情には焦燥が浮かんでいた。
「ウト、カミュを守れ!カミュは魔法の詠唱を開始だ。リゼットは援護を頼む!」
「「了解!」」
リークの迅速な指示により陣形が即座に変わる。
俺は言われた通りに下がったがどういうことだろう。
「カミュ、ゴブリンってそんなに強いの?」
「いえ、ただ今回の場合は少し違いますね。リゼットさんの感知に掛からなかったということは待ち伏せされていたということです。リゼットさんのスキルは動体感知なので止まっている敵に関しては反応できないんです。今回のゴブリンは待ち伏せするだけの知能があるので普通よりは警戒します。他に隠れていないとも言えないので」
普段はあまり喋らないカミュがとても饒舌に説明してくれた。ちなみに俺が話しかける前にカミュは火球の詠唱を終わらせていた。これが経験の差というものだろうか。リークたちはまだ新人ではあるがそれでも立派に俺よりも経験を積んでいる先輩だ。今この三人がとても心強く感じた。
感じてしまっていた。完全に油断だろう。二人が三匹のゴブリンを押していることから完全に俺は油断していた。平和ボケした日本の脳みそが反応を遅らせた。
俺は背後から近づく影に気付けなかった。いや、反応はしたとだけ言っておこう。
ガサッと、草をかき分ける音が聞こえ、後方を振り返るとそこには草陰から飛び出し剣を上段に構えたゴブリンがいた。
狙いは俺。ゴブリンの剣に対し驚きと恐怖で身体が動かなかった。
カミュの必死な声も、リークたちの戦闘音も全てがスローモーションに聞こえ、自分の身体は思うように動かない。
走馬灯のように転生後の八日間が思い出される。
お爺さん、恩返し出来なくてごめん。
ワード、約束守れなくてごめん。
心の中で今までに仲良くなった人達に謝罪を述べ俺は現実から目を逸らすように目を閉じた。
俺は転生した二度目の人生をこんな形で終わるなんてと思いながら死の痛みを...
──────────────────
〈ステータス〉
宇都光太郎 15歳 男 Lv1+2
職業:冒険者
体力51+3
敏捷51+3
筋力51+3
耐久50
魔法50
ジャックバットとの戦闘でステータスが上がった。レベルが2上昇。
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
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