第3話フリーター頑張ります。
元ゲー
3話
趣味が開発のお爺さんの家を出た後、俺は真っ直ぐにギルドへと向かった。
試しに何度かマップを開いてみたが、前世のアプリを思い出させるほどに素晴らしいものだった。拡大も縮小も自由自在で、今度この街を踏破しようかと思う程だった。
「さて、今日は何をするか」
俺は掲示板の前で腕を組みながら多種多様の紙を眺める。
やはりここは掃除系だろうか。肉体労働というのは思ったよりもいい稼ぎになる、というのをこの前の掃除で学んだ。というか依頼書を見れば直ぐに分かる事だ。
これなんかどうだろうか。
〈街一番の鍛冶屋の手伝い〉
募集要項...Eランク以上
定員...一名
備考...街で一番人気の鍛冶屋で手伝いをしながら鍛冶を学びませんか?初心者大歓迎!
自分で街一番とか言っちゃうんだ。というか新入部員の勧誘にしか見えないなこれ。
とりあえず今日はこの依頼を受けることにして紙を受付カウンターで受理してもらう。
ちなみに倉庫の掃除が二万シル。今回の報酬が一万五千シル。貨幣価値や物価は前世とほぼ同じで、一シル一円と考えて良い。分かりやすくて助かる。
依頼書に書いてあった地図を思い出しながら鍛冶屋を目指す。鍛冶屋の名前は[ドワーフ工房] 分かりやすいというか夢と期待に満ち溢れた名前をしている。
ドワーフといえば工芸品制作において右に出るものは居ないとまで言われるほど、物作りが得意な種族だ。それを実際に見れるなんて感動だ。この街に来て初めての亜人種では無いだろうか。
「あった...」
街の商業区の一端、観光区と隣接する位置にあるこの工房は、やはり自分でいうだけあって大きな工房だった。それにこの立地が取れるということはそれなりに売れているということだろう。大きな通りに面した工房の中からは鉄を打つ音と人の怒号、それから熱気が溢れ出ていた。
「ごめんくださーい!」
お爺さんの時と同じように大声で中に声をかける。
俺の声に反応して数人が振り返るが、誰も俺を出迎えるものはいない。それぞれの仕事で手一杯のようで放置をくらう。
「誰だ!?」
工房の最奥、野太い声が返事をした。
「冒険者の依頼で手伝いに来ました!」
「おお!早く入れ!」
この工房のお頭らしき人物の許可を得られたので、他の人の邪魔にならないようにお邪魔する。
「俺はこの工房の主、ドワーフのワードだ。今日はよろしく頼むぞ」
「冒険者の宇都です。こちらこそよろしくお願いします」
軽く握手を交わすとワードによって仕事内容の説明がされる。
今日の仕事は、ドワーフ工房の下っ端の手伝い。工房の精鋭達が作っている汎用剣を箱に入れて一箇所に運ぶ。
ただの運搬作業かと思ったが、これが思ったよりも重労働。デスクワークばかりだった前世がここに来てこたえる。
「重っ!?」
汎用剣の入った箱は、ひとつに十本で、それが二百箱。これを荷車まで運ばなければならない。
なんでも王国から汎用剣の大量製造を依頼されたらしく、今はそれが完成したため運ばなければならない。だが、工房の人間は各々の仕事があるので下っ端だけでは運び手の数が足りないという。
「ちゃっちゃと運べ!夕方までに終わらなかったらお前ら炉にぶち込んでやるからな!」
ひぃぃ、おっかねぇ。
ワードはこうして下っ端に喝を入れている。下っ端は九人で、俺を入れるとちょうど十人。二人は荷車で受け取りなので二百箱を八人で運ばなければならない。
三個運んだあたりから腕が悲鳴を上げ始め、今は運び始めてから二時間、やっと最後のひとつを運んでいるところだ。
「終わった...」
最後のひとつを荷車に積みその場に座り込む。すでに腕は限界を超え筋肉痛になっいる。
「やるじゃねぇか、新人。お前がその気ならいつでも見習いから働かせてやるぞ」
「いえ、結構です」
この人の下で働くなんてごめんだよ。今日は外部の人間として来たから良かったけどこれが下っ端だったらもっと怒られてるんだろうな。
「これ、依頼完了のサインだ」
「ありがとうございます」
ワードに預けていた依頼書にはワード直筆のサインが書いてあった。これが依頼完了の証拠となり、これがなければ報酬を貰うことが出来ない。
「これ良かったら持ってけ、余分に作った汎用剣だ。お前は冒険者なんだろ?自分の得物ぐらい持っておいた方がいいぞ」
「ありがとうございます!」
ワードから汎用剣を受け取り腰に佩く。剣の重さを感じると、
「似合ってるじゃねぇか」
ワードから褒められた。服装はまだ一般の人達と同じだから違和感が半端ないんだが。これで防具類の装備もあれば様になるのに。
「今日はありがとうな。もし武器に関して用があるならうちに来い。おまけするぜ」
「はい。ありがとうございます」
工房の前でワードと別れ、ギルドへと向かう。今はちょうどお昼時で、肉体労働をしたせいかお腹が減っている。
今の所持金が二万シル。この依頼の報酬を合わせると三万五千シル。昨日はお爺さんの家に泊めてもらったから今日は宿を探さなけれはならない。一泊にかかる料金相場を知らないためお昼ご飯であまり無駄遣いは出来ない。
俺はギルド横にある食堂を使うことにする。あそこは冒険者割引があって一般の人よりも二割引でご飯が食べられる。
「先に宿を探した方がいいのかな」
宿の相場がわからない以上無駄な散財は避けたい。ギルドで聞いてみるか。
「すいません」
「はい」
「宿を探したいんですけど」
半円形の受付でお姉さんに聞く。
「それでしたらギルドでやっている宿がありまして、冒険者の方は二割引でご利用できますよ」
マジか。冒険者様様だな。
俺は有難くギルドの恩恵を受けることにした。
しかし、とてもいい商売だな。ギルドは魔物の素材を買い取り、宿や料理を割引で提供することで帰属意識を冒険者に植え付ける。そして俺達はその恩恵に依存し始める。
まぁ、それが別に悪いということではないんだけどね。
だけどこうなると午後の時間が暇になるな。お昼ご飯をここで食べることは決定事項だし。もうひとつ依頼を受けるか。
こうして俺の冒険者ライフが始まり、およそ八日後。俺はクエストを十個連続で成功させ無事にランクアップを果たした。
──────────────────
〈ステータス〉
宇都光太郎 15歳 男 Lv1
職業:冒険者
体力51
敏捷51
筋力51
耐久50
魔法50
〈スキル〉
・バク修正...任意の対象に干渉する
・異世界言語...異世界の言語が話せる
・ステータス...自分の能力を視覚化する
ワードの鍛冶屋の手伝いで体力と筋力の値が1上がった。
迷い猫の捜索で敏捷が1上がった。
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