第7話「恐怖・初デート」前編
「ち、智夏くん……、こうやってちゃんと向かい合って話すの初めてだね……」
どうしてこうなった?
何故僕は此処に居る?
智夏の心の中には様々な疑問と不満が渦巻いていた。
場所は麻九良市内の喫茶店、客はまばらであり。客付きの割りに美味しい料理が食べられるこの喫茶店は誰かとゆっくりお茶をするなら絶好の場所と云えた。
そんなデートには打ってつけの場所に今智夏は美羽莉と居る。
美羽莉と二人きりで向かい合って座っている。
どうしてこうなった?
何故僕は此処に居る?
そんな状況の中智夏は何度も何度も同じ問い掛けを自分に投げ掛け当惑していた。
美羽莉を号泣させてしまってから彼女が泣く姿が脳裏に焼き付き、いたたまれなかった智夏は幼馴染みの明子に連絡した。
明子と美羽莉は親友と聞き及んでいた。だから明子に連絡すれば何か解決策を見付けてくれると思ったのだ。
その結果こうなった。
目の前には大号泣した挙げ句逃げ去った変態がモジモジと体をくねらせ、頬を赤らめながら座っている。
しかも、しかもだ、日が空いているならまだこの状況も分かる。
数日を経て美羽莉も精神的なダメージから立ち直り、再び智夏の前に出る勇気が持てるようになった。
それならまだ納得も出来る状況だった。
しかし、今日はその翌日だった……。
美羽莉を泣かせ、彼女を傷付けてしまったあの出来事は昨日の事だった。
色々と早すぎやしないか?
明子の迅速なセッティングもそうだが、昨日大嫌いと言われた相手の前に良く顔を出せたなと。美羽莉のその図太い神経に呆れてしまう。
いや、そもそも常人とは掛離れた神経の持ち主でなければあれ程手前がってな凶行には出ないか……。
「智夏くんって休みの日何してるの? お友達と遊んだりするの? ゲームとかが好きなのかな? 明子からスイーツが好きって聞いてるから、お店巡りとかするの? 私もねスイーツ大好きなんだ。この辺りのスイーツ店はほとんど網羅してるのよ。昨日会ったあのお店も確かに美味しいけど、街外れの一角にもっと美味しいスイーツ食べさせてくれるお店知ってるの。あ、でも智夏くんの好みにもよるよね……。どんなスイーツが好きなの? ケーキとか洋菓子系? それとも和菓子の方が好きかな? 私はね何でも好きよ、選り好みして美味しい物食べられないのは損してるからね。先ずは食べて、それから自分の好みになるか判断するタイプなの。もし良かったら今度一緒に……、キャーキャー! 私何一人で先走ってるの! ごめんね、まだそう云うの早いよね。でも、智夏くんが食べたかったら今度テイクアウトして貰うから言ってね。喜んで買ってきてあげるから。それにしても……、ちゃんとお話するの今日が初めてなのにビックリするくらい会話弾むね。やっぱり智夏くんとの相性良いんだわ! きっときっと、運命が智夏くんと結ばれろって言ってるのよ! そう思うよね智夏くんも?」
「黙れ」
凄まじく長い、独白とも言える一人語りを美羽莉は繰り広げた後、そんな勘違いを抱きそう智夏に問い掛けると。智夏はたった一言、端的に彼女の問いを切り捨てた。
驚くくらい冷徹な眼差しで彼女を睨みながら、恐ろしい程凍てついた声で吐き捨てた。
「うぅ……、ひっく……」
そんな智夏の冷たい態度に美羽莉は傷付き、昨日の悪夢再び泣き始めてしまった。
しかし、昨日と違って美羽莉の泣く姿を見ても智夏は冷静だった。
そりゃそうだ、あんなに号泣していたのにたった一日で立ち直ったのだから。どうせ今泣いたとしても又直ぐに立ち直る。
こいつはそう云う奴だ。気に掛ける価値も無い事が今回の一件で良く分かった。
昨日の詫びのつもりで嫌々ながらも仕方なくこの茶会に赴いた智夏だったが、こんな下らない催しとっとと終わらせた方が良いと美羽莉の態度から思い至った。
だが、それを外野が許してくれなかった……。
「智夏、ダメ、ダメ!」
遠くからそんな声が聞こえ、声のした方に視線を向けると。智夏達から少し離れた席、閑散とした店内の中に明子と秋兜が居た。
二人は遠くから智夏達の様子を伺っていた訳だが。美羽莉が再び泣き始めると明子は極力押し殺した声でそう智夏に叫び、大仰に頭の上で腕をクロスさせ智夏の行動を咎めた。
その向かいの席を見やれば、昨日まで美羽莉に厳しかった筈の秋兜まで表情を曇らせ首を横に振っていた。
四面楚歌、智夏の味方は誰もいなかった。
何故こんな人間の為に自分の感情を押し殺してフォローしなければならないのか。理解に苦しむ。
理解に苦しむのだが、確かに女性を泣かせてしまうのは頂けない。
相手がどんな人間にしろ、どんな理由があるにしろ、女性は敬って当たり前なのだ。
明子や秋兜の指摘もあり、自分の態度を悔いた智夏は嫌々ながらもフォローしようとした。
「あの……、冴岸先輩。先輩って……」
「美羽莉で良いわ」
美羽莉を慰める為に声を掛けようとした智夏だったが、智夏が自分の名前を口にした瞬間泣いていた筈の彼女は鼻息を荒げ。興奮したようにそう求めた。
余りの態度の急変ぶりに智夏は戸惑ってしまった。
「冴岸何て名字じゃなく名前で呼んで。さんもちゃんもそんな他人行儀な敬称なんて要らない、呼び捨てでお願い! 私智夏くんとは結婚を前提とした真剣なお付き合いを考えているの! 私ね今まで恋何て一度もした事が無かったの、男何て誰が一番強いかって下らない事しか考えない生き物だと思ってたから。魔王だなんて呼ばれて、来日も来日もバカな男どもに挑まれて辟易してたの。恋する価値も無いって、恋する日何て来ないってずっと思ってきたの。でも、あの日智夏くんと出会ってそれが間違いだって思い知らされたのよ。私の前に現れた貴方はまるで天使だった……。智夏くんだけキラキラと光輝いているように見えた……。この世のものとは思えないくらい可愛くて、私、一目見ただけで智夏くんに恋したの。一目見て私の○○○は○○たわ……。○○○が智夏くんの○○を○○させろって叫んだのよ……。○○に智夏くんの○○を○○しして貰いたくて今でも○○が疼いてるの……。智夏くんが本気の付き合いは嫌だ、○○○しか要らないって言うなら喜んで私○○○になるからその時は言ってね!」
「喋るな」
そんな戸惑う智夏をよそに悪夢三度、又しても美羽莉の独白のごとき一人言が始まった。
しかも後半に行けば行く程生々しく、気持ちの悪い表現が飛び出した。それに思わず智夏はたった一言、端的にそう切り捨てた。
やはりその視線はゴミでも見るかのような冷徹な眼差しであった。恐ろしい程凍り付くような声で吐き捨てた。
「うぅ……、ひっく……」
そして、堂々巡りのように再び泣き始めてしまう美羽莉。
しかし、涙を流す美羽莉を見ても智夏が罪の意識を抱く事も同情する事もない。
今回の発言ではっきりした、こいつに気を使うだけ無駄なのだと。
脳内で勝手に繰り広げている妄想は外道極まりない事がはっきりした。
今までまともに口を聞いた事が無い、一方的に喋るだけで智夏の話を聞こうともしなかった。そんな相手に、そんな状況に一切の躊躇も無く堂々と卑猥な事を述べる奴だ。
気に掛ける価値が無い事を理解した。
こいつをもう女だとは思わない。
これ以上曖昧な態度を取って周りを彷徨かれ不快な気持ちを抱きたくなかった。
終わらせる、こいつの勘違いを今日、今此処で!
「だから智夏、落ち着いて!」
又外野が五月蝿いがそんな事もう関係無い。
智夏はキレた、完全にぶちギレた。
「こらー智夏! 何美羽莉ちゃん泣かせてるの! 女の子泣かせちゃダメでしょ!」
おめでたい美羽莉の妄想にピリオドを打つべく、止めの言葉を浴びせようとした瞬間。突然智夏を咎める声が聞こえた。
聞き覚えがある声だった。今まで何度も聞いてきた声だった。
その声に驚き、智夏が声のした方に視線を向けると。そこには腰に手を当て、鬼の形相を浮かべた小春が仁王立ちしていた。
「小春ちゃん! 何でここに居るの!」
小春の姿を捉えると智夏は驚愕した。格好は……、今日は大丈夫な日だ。その背丈には余るブカブカのパーカーを着、下はジーンズを履いている。昨日の自身と同じような格好だった。
その姿から冬華は一緒に来ていない事が分かった。
一緒に居たら又恐ろしい格好をさせていたから直ぐに分かる。
母が居ない事は分かったが、何故父がこの場に居るのかは皆目検討もつかず。正か秋兜と明子が呼んだのかと二人の方に視線を向けたが。二人も驚いた面持ちを浮かべていた。
二人の仕業では無い事はその表情から読み取れた。
なら、一体誰が小春を呼んだのか……。
「あ、小春ちゃん着てくれたんだ。用事あるって言ってたからもう少し遅くなると思ってたけど、案外早かったのね」
美羽莉だった。
確かに昨日親友と両親はほざいていたが、呼ばれてホイホイと現れるだ何て此処まで親しい間柄とは思ってもいなかった。
と言うか、又してもこいつは即座に立ち直りやがった。
絶対に嘘泣きだ、こいつの涙には二度と惑わされない。
「美羽莉ちゃんと智夏の初デートだもん、早めに切り上げて様子を見に来たんだよ。美羽莉ちゃんはボクの妹みたいなもんだからね、心配で心配で居ても立ってもいられなかったよ」
息子の心配は!
他人を案ずる前に実の息子を気に掛けてよ!
そんな嘘泣き美羽莉の言葉に小春が返した答を聞くと智夏は思わずそう心の中で突っ込みを入れてしまった。
前々から薄情な親だとは思ってはいたが、此処まで酷い親だとは思ってもいなかった。
もう小春の事は父だとは思わない、思ってやるものか!
「それにしても、前好きな人が出来たって美羽莉ちゃんが言ってた相手が智夏だなんて思いもよらなかったよ。まぁ、智夏は背だけデカくなった秋兜と違ってボクに似て格好良いからね。その気持ちも分かるけどねぇ」
そんな人知れず親子の縁を我が子に切られそうになっているとは知らず、小春は何食わぬ顔で美羽莉の横に座ると自分に似た風貌に育った智夏を誉めちぎり胸を張った。
お世辞にも小春も智夏も格好が良いとは言えなかった。
ルックスは確かに悪くは無い、だがそれは可愛いと云う意味であり。世間一般のイケメン像とはかなり掛け離れていた。
どちらかと云えば今引き合いに出された秋兜の方が世間一般ではイケメンに属するだろう。
頭脳良し、ルックス良し、スタイル良し。
近しい人間からすれば若干性格に問題があったが。見た目だけなら間違いなく秋兜の方がイケメンと言えた。
「そうよねぇ、小春ちゃんはイケメンだもんねぇ。初めて会った時女の子にしか見えなかったもん、あんな背だけ無駄に大きい鬼畜と違ってホント格好良いわ」
そんな世間一般のイケメン像を根底から否定し小春の言葉を全面的に肯定する美羽莉。
趣向は人各々、犯罪に手を染めない限り主張するだけならば罪にはならない。
「ホント、昔は秋兜も可愛かったんだけどね……。中学に入った頃から急激に身長だけ伸びて、冬華ちゃんみたいになるならまだしも。中身はホント子供、一体誰に似たのやら……」
それは間違いなくアンタだ!
小春のぼやきを眼前で聞かされた智夏は思わず心の中でそう突っ込みを入れてしまった。
確かに弟と云う立場から見ても秋兜は少し外見にそぐわず子供染みた所があった。
負けず嫌いと云うか……、驚く事でムキに
なってしまう一面があり。自分の行動を客観的に見る事が出来なくなってしまう事があった。
その点はまだ智夏の方が大人とも云えたが、そもそもその血筋は間違いなく小春からの遺伝であり。
40を過ぎても未だ容姿も中身も子供のままな小春に貶される謂われは無かった。
「ホント小さな事で直ぐ目くじらを立てるもんねあの男は。包容力があって落ち着いてる小春ちゃんの子供だとは思えないわ」
先程まで智夏に冷たくあしらわれ半べそすらかいていた美羽莉は、親友と呼び合い、妹とすら言ってくれる小春の登場によって俄然調子に乗り。件の秋兜がこの場を設けてくれた恩すら忘れ秋兜貶しに拍車を掛ける。
「ホントホント、美羽莉ちゃんは良く見てるね! 今の美羽莉ちゃんの言葉秋兜にも聞かせてあげたいよ!」
自身の言葉に賛同し、秋兜批判を続ける美羽莉と実の父。
昨日は母が二人が似ていると言った言葉に賛同しかねていた智夏だったが。こうやって会話を重ねる二人の姿を見て冬華の言葉が理解出来た。
確かにふたりは似ている。自分よりも美羽莉の方が小春の子供では無いかと思えてしまうほど考え方がそっくりだった。
普段の智夏なら小春の言葉を適当に流してしまう所だったが今は普段と状況が違う。
何故なら件の秋兜が直ぐそこで二人の会話を聞いているのだから……。
「いやぁ、本当に小春ちゃんとは馬が合うわね。あの男も小春ちゃんみたいに柔軟な発想が出来たら素直に敬ってやるのに、こっちの意見なんて一切聞く耳持たないんだもん。今度小春ちゃんからもっと大人になれって説教してあげてよ」
「美羽莉ちゃんも秋兜の犠牲者だったんだね。ボクだけじゃ飽きたらず美羽莉ちゃんにまで迷惑掛けてる何て許せない! まかせておいて美羽莉ちゃん、秋兜の蛮行はボクが止めてあげるからね!」
そう言ってがっしりと両手を握り合うバカ二人。
このまま二人を調子に乗らせては不味い、又余計な騒動が起きてしまう。
そう慌て、事態を穏便に解決させる為に小春と美羽莉に釘を刺そうとした智夏だったが。
時既に遅かった……。
「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって……。あんたそれでも俺の親か! それと、お前は調子に乗ってんじゃねぇー!」
二人が自分に対して日頃どんな感情を抱いていたのか、暫く傍観していた秋兜は智夏が二人を制止する前に我慢の限界に達し。
智夏達を見守っていた席から瞬時に彼等の元へ駆け寄るやいなやそう叫び。今ではすっかり恒例となった胸に忍ばせていたスリッパを取り出し美羽莉の頭を思いっきり叩いた。
――スパーン!――
毎度の事ながら秋兜のスリッパ使いは達人の域に達している。
叩く角度が良いのか、力加減が絶妙なのかは分からないが、気持ちが良い程芯を捕らえた打撃音を鳴らしてくれる。
「ギャーーーッッ!」
そんな見事な一撃を喰らった美羽莉は絶叫すると頭を抱えテーブルに突っ伏した。
毎度美羽莉の勝手な行動に振り回される智夏としてはその音を聴き、痛みにあえぐ美羽莉の姿を見ると救われた気分になるから不思議だ。
「うわッ、秋兜居たの!」
「居たら何だよ? 居なかったら好き放題言って良い何て法律があるのか?」
そんな胸のすくような爽快感を覚えた智夏とは対照的に、秋兜がこの場に居ないと安心しきっていた小春は。
美羽莉が頭を叩かれた事よりも秋兜の突然の登場に驚きそう叫んだ。
そんな驚愕する実父に対し、散々貶された秋兜はまるでゴミでもまるかのような冷徹な眼差しで小春を見下ろしながらそう答えた。
「す、好き放題って……。じ、実の息子だから率直な意見を述べてただけだよ!」
これは不味い、本気で怒ってる……。
今までに無い程自分を見る秋兜の視線が冷たい事に気付いた小春は、頭を叩かれ悶えている妹とまで呼んだ美羽莉をそっちのけで自身の保身に走った。
「へぇ……、つまり父さんは常日頃から俺の事を可愛げの無いダメな息子だって思ってる訳だ。そうなんだな?」
しかし、保身に走った結果見事に墓穴を掘ってしまった。
小春の答えを聞くと、パンパンと自身の手にスリッパを叩きつけて小春を威嚇する秋兜。
最早何を言っても秋兜の怒りを静める事は出来ない、そう悟った小春は即座に席から立ち上がり。
「あ! 夕方から冬華ちゃんと約束してたの忘れてた! 早く家に帰らないと!」
あからさまに今捏造したのが分かる急用を思い出したかのようにそう云うや、小春は一目散に店外へと駆け出し逃げ去ってしまった。
「こ、小春ちゃん! 一人にしないでよ!」
それまで瀬名家の家長を味方に付けていると云う安堵から横柄な態度を取っていた美羽莉も、親友と呼び合った仲間が逃亡した事実に衝撃を受け。一人で逃げるなと呼び止めようとしたがその時には既に小春の姿は無かった。
妹と呼んだ少女を修羅と化した秋兜の元に取り残すとは外道極まりない……。
必然的に此処に残されたのは智夏、秋兜、美羽莉に明子の四人だけとなった。
「全く……、自分に都合が悪くなると直ぐに逃げて……。まぁいい、父さんは家に帰ってからきつく説教するとして、今はお前だ冴岸!」
今逃げても家に帰れば秋兜と必ず会う訳で、説教される時間が先伸ばしになっただけの事。
後でじっくり、きつーく説教の出来る小春はこの際放っておくとして。今は恩も忘れ調子に乗った美羽莉を咎める事が優先事項だった。
――ドンッ――
秋兜はそう言うや机を思いっきり叩き付けた。
「ひぃーー! そんなつもりじゃ……、そんなつもりじゃ無かったんですよ! 許して下さい!」
秋兜が力一杯机を叩くと、味方を失い四面楚歌に陥った美羽莉は怯えた。
両手を顔の前で合わせ、必死に自分の非を詫びた。
「そんなつもりじゃ無かったらどんなつもりだったんだ? 悪気が無かったら何でもして良いと思ってるのか?」
詫びたのだが、そんな見え透いた謝罪でボロクソに貶され沸点を越えた秋兜の怒りが静まる訳も無く。
そう正論で詰め寄られてしまう。
これは不味い……。もう何を言ってもこいつの怒りを静める事は出来ない。
そう悟った美羽莉は小春のように適当な用事を繕いこの場から逃げてしまいたかったが。
小春のように虚を突いて立ち上がろうにも目の前に秋兜が仁王立ちしている。逃げる隙など微塵も無い。
機を逸した。逃げる事はもう出来ない。
斯くなる上は口うるさいこいつを葬る以外無傷で助かる道は無い。
秋兜などクソ雑魚だ、軽く一捻りする自信がある。倒すことなど雑作も無かった。
しかし、目の前には智夏が居る、智夏が見ている……。
将来の夫となる彼の目の前で、将来の兄となる秋兜に手を上げる訳にはいかない。
そんな事をすれば美羽莉のお目出度い頭の中で何百回も思い描いた幸せな智夏とのハッピーライフが粉々に砕け散ってしまう。
こんな奴を将来兄と呼ばなければならないのか……。
そう考えると腹立たしい事この上無かったが、背に腹は代えられない。
此処は下手に出て、土座下でも何でもして溜飲を下げよう。
そう思い一時の恥を忍んで土下座しようとした彼女に天からの助けは唐突に授けられた。
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