第12話〜ヤンキーの護衛〜

 ガタンゴトンと規則的に聞こえる音に、今日もいつもの朝だと感じる。けれどこの居心地の悪さは、先月まではないものだった。


 目の前には不良の男の子が、私に壁ドンをしたまま、周りの人たちに目をギラつかせている――。





 彼と付き合い始めたのは一週間前のこと。私が電車で痴漢をされて声を出せずにいたところを、彼が助けてくれたことがきっかけだった。


 彼は身長が高い。それだけで威圧感があるのに、加えて目つきの悪さから周囲に怯えられている。私もその一人だったけど、勇気を出してお礼を言いに行ったその日から、彼の私へのアプローチが始まったのだ。


 助けてもらったこと。そして知らなかった彼の優しい一面も知って、最終的には付き合うことになったのだけど……。



「……あのね」


「ん? 何?」



 私が話しかけると、彼は途端に優しい瞳になる。不思議なことに、これを自然とできるのは私に対してだけらしい。普段からできれば、誤解も解けると思うんだけど。


 向けられる優しさに申し訳ないと思いつつ、彼を傷つけないよう、言葉を選んだ。



「そんなふうに見てるとね、周りの人たち、怖がっちゃうと思うの」


「ふん、それなら好都合じゃねえか。誰も近寄らなければ、お前が怖い思いをすることもねえし」



 何故彼が周囲に睨みを利かせているのか。それは私が再び電車で痴漢の被害に遭い、それを彼にこぼしたことが原因だった。



「で、でも私、そばにいてもらえるだけで心強いよ? だからそんなに怖い顔しないで、ね?」



 必死に訴えると、彼は顔を赤くして頷いた。

 

「……お前がそう言うなら、分かった」


「ふふっ、ありがと」



 私は今日も、このヤンキー彼氏に守られている。

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