第11話〜恋、加速。〜

 三回目のデート。今日は、彼と水族館に来ていた。



「結構混んでるね。考えることはみんな同じなのかな」



 私につられて、彼も苦笑いした。



「ですかね。俺たちはあらかじめ決めてましたけど、今日の天気で行き先を変更した、って人が多そう」



 今日は生憎の雨。水族館を好きなのは彼で、予報が出る前には行き先を決めていた。けれど梅雨に向かうシーズンとは言え、昨日までは晴れていたのに、ピンポイントで雨が降るとは。


 中は想像どおりの混み具合で、一歩間違えれば彼の姿を見失ってしまう。もはや魚どころではない。


 手を繋ぐ――ということが頭に浮かんだ。でも、私たちはまだ付き合っているわけではない。


 年上の私がリードするべき? 少女漫画でよく見る、服のすそを掴む小悪魔チックな技もあるけど、年下の女の子がやるイメージだし……。


 過去の年上彼氏さんは、自然と手を伸ばしてきた。だから手を繋ぐタイミングなんて、深く考えたことすらない。



「あ、クラゲのコーナー。広いけど、かなり人いますね」


「うわほんとだー。うっかりするとはぐれちゃいそう」



 口に出してからハッとする。わざとではなく、本当に、心の底からそう思ったのだ。彼はどう捉えたかな、とこっそり顔を窺ってみると、彼の視線とぶつかった。慌てて逸らし、クラゲコーナーへと向かう。


 その時だった。


 するり、と私の右手に絡んできた左手。それはそのまま私の手を引いて、空いたスペースに滑り込む。


 もう一度目が合った時、彼はこう言った。



「うっかりはぐれないように――ね」



 いたずらな心が込められたような、けれど優しい微笑みに、顔が熱くなるのを感じた。


 私の恋は、一気に加速する。

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