第5話〜名のない歌―聖なる夜に〜

 僕のランチタイムのBGMは、決まってこれだ。どこからともなく聴こえてくる、澄んだ声色。高音はどこまでも届くような、低音は優しくもしっかりと耳に届くような。


 この曲の名前を、僕は知らない。





「ねえ、この曲って知ってる?」



――なんて、気軽に話しかけられる友達は、このクラスにはいない。高校に入ってすぐに体調を崩して休みがちになった結果、クラスに親しい友人は作れずに今日に至る。


 弁当は別の棟の屋上で一人虚しく食べていた。いな、虚しかったのは最初のうちで、今はいこいの場だと思っている。

 この音色が加わってからは。


聞いたことがあるようでいて、ないような。不思議な旋律。とても聴き心地がいい声。音楽に詳しくない自分が言うのもなんだけど、この人の声に合った歌だな、と思った。





 クリスマスイブの夜、バイト終えて帰宅途中だった僕は、あの声を耳にした。捉えた小さな音を逃すまいと声を辿ると、小さな公園に行きついた。


 近づいて、公園の灯りを頼りに顔を覗く。同じクラスの女の子だった。彼女も僕と同じで、誰かといるところはほとんど見ない。


 彼女と少し言葉を交わすと、にっこり笑って歌を歌ってくれた。それは僕のためにたった今考えた、即興の歌。


 素敵なクリスマスプレゼント。彼女は僕だけが知っている、サンタなのだ。

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