第4話〜ハッピーなHalloween〜

「ねー舐めないの、ご主人様?」



 数秒の間、空いた俺の口は塞がらない。つい一週間前、我が家にやってきたのは……悪魔のような天使だった。





 部屋のドアを開けると、奥にある俺のベッドにちょこんと座る、金髪の少女が笑う。


 彼女、レインが現れたのは一週間ほど前の夜、アルバイト先からの帰宅途中だった。寂れた駄菓子屋の前に置いてある、赤い塗装が剥がれかけたベンチ。レインは膝を抱えて、星のない虚空を見上げていた。


「こんばんは」と赤の他人である自分達には不自然な挨拶をされ、同じく返すと、レインは何故か俺の後ろをついて来た。部屋に入って灯をともすと、思わず息を飲む。夜道では分からなかったレインの特徴が眼前に出現した。黒い羽根だ。



「あ、悪魔なのか?」


「ううん、天使だよ」



 間髪入れずにレインは答える。満面の笑みで。何故黒い羽なのかと聞くと、天使にも色々あるから、とはぐらかされてしまった。


 それから彼女は俺の好き嫌いや趣味、苦手なことなどを質問してきた。たわいもない話をして、ハロウィン当日、この状況に至る。俺は今、ベッドの上でレインに跨がられるようにして迫られていた。


 白に近い金髪に、白い肌。薄ピンク色の唇は少し厚みがあって、瞳の漆黒が目に焼きつけられる。



「はい、あ~ん」



――よいのだろうか。混乱しつつも迫ってくる唇を避けられず、いよいよその柔さを感じる。唇が離れると、真っ直ぐに注がれる視線から逃れるようにして、話題を変えた。



「大体、ここに何しに来たんだよ、レインは」



 にやっと口元を歪ませた。それはね――ともったいつけた空白に、思わずごくっと唾を飲み込む。



「ハロウィンにイタズラするため!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る