第3話〜ショートカットの魔法〜

――やってしまった。


 そう嘆くのは、カットを終えて鏡を見ている私。


 約三年近く伸ばしたロングヘアーに別れを告げた。理由は単純、「彼氏に別れを告げられたから」だ。付き合ってもうすぐ一年が経とうとしていたのに。


 髪の手入れもアレンジも何もかも嫌になった私は、ショートカットを選択した。お任せで、と投げやりだった。


 その結果、ブルーな気持ちに追い打ちをかけるようにして起こった今回の事態……。





 最寄りのスーパーで野菜をぼんやりと見つめていると、見覚えのあるフォルム。たまねぎみたいな髪型だ。


 こんな時は癒しが必要。――いた、牧野くんだ。我ながら、高校生の男の子に癒しを求めるとは。



「いらっしゃいませ」



 中性に近い顔を、いつものように少しだけ接客用に切り換えてくれる。その口の端が、また可愛い。



「こんばんは。お疲れ様です」



 このように話しかけてみると、案外と返してくれるもので。



「どうも。……髪、切ったんですね」



 気づかれてしまい、たまねぎみたいだよね、と買い物かごを見つめる。



「俺、的には、ですけど」



 一瞬だけ、牧野くんの手が止まる。



「甘栗っぽくて可愛いと思います。ツヤもある――」



 彼の目線の先には、レジ横のフックにぶら下がる商品。


 思わず反射的に、え? と聞き返すと彼もハッとしたようで、急に手の動きが素速くなる。



「変態っぽくてすいません」


「変態だなんて、そんな……」



 お互いに動揺を処理できないままレジを後にする。


 レジ袋に追加した甘栗のパックを見つめ、思わず笑みがこぼれるのだった。

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