第2話〜夏の夜〜

 こっちなんか、一ミリたりとも見やしない。スマートフォンの画面をそんなに近づけて、こいつはソファに深く腰かけている。


 明日が一体どんな日か分かっているのだろうか。


 呼びかけても生返事ばっかり。肩を叩くと「ちょっと待って」。


 聞きたくない――実に明日へと時を刻むこの音も、窓を叩く水の音も。


 日付が変わる一分前になったところで、ちらりと脇目で探るも、やはり気づく気配はない。念を送ってみても、わざとらしく息をついても前述同様、「やはり気づく気配はない」。


 じっと彼を睨みつけていると、突如彼は顔を上げた。



「何、びっくりしたじゃ……」


「今日で付き合って三年だな。……ありがと」



 思わず目をぱちくりさせる。行き場をなくした般若はそこらへんでも彷徨うことだろう。



「読んで」



 彼が指差すのは、私のスマートフォン。メッセージのアプリの中には、スクロールが二、三回くらいは必要なほどの文章が詰め込まれていた。



「サプライズ〜。どう、驚いた?」



 そう言って真っ直ぐに私の元へ。ベッドに腰かけた彼の背が、心なしか伸びているような気がして、同じベッドの上で寝転がっていた私も起き上がる。



「俺と結婚してください」



 感謝のメッセージとプロポーズの言葉。不器用なサプライズに、私は思わず、返事をして抱きついた。


 夏の夜は、まだ明けない。

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