第4話 事象の地平面に落ちかける
ムイシュキン公爵はエウレカ計画を発動した。ソフトのアップデートによりトルコリラとメキシコペソという2つの禁断の通貨を解放したのだ。
さっそく月曜日にトルコリラ円の通貨ペアをロングで保持した。トルコリラは毎日加算されるスワップ金利が高く。それを目当てに保有するFX戦士は多い。しかし、下落し続ける通貨でもあるのでスワップ金利以上の損失をだし塩漬けになったトルコリラを保有し続け、ゾンビ状態になっている可能性は高い。
はたまた下落の衝撃に耐えきれず磨り潰されたかもしれない。
最大レンジの月足チャートを見る限り2007年に1トルコリラ78円だったものが2018年には15円まで落下し続けていた。その差は実に6300ppである。1ポゼッションを保有していても63万円の損失ということだ。
ムイシュキン公爵はトルコリラ円の通貨ペアを20.80円ロングで保有したのだ。
「こちらムイシュキン公爵。記録を開始する。現在深度20.70。深く暗い。領域は安定している。」
ゴポポ
甲冑の様な潜水服を身に纏ったムイシュキン公爵は静かに深海に出現した。いや宇宙服を身に纏いブラックホール付近の銀河にいるのかもしれない。どちらだっていい。ロングポゼッションを保有するムイシュキン公爵にとっては上昇することこそが唯一の目的であり、使命なのだ。
エウレカ計画の三本の柱について。
一つトルコリラ円の通貨ペアスワップ金利にて超長期的損失回復
二つカナダドル円通貨ペア両建てにて今年の損失を来年に転移させる。
三つ各種通貨スキャルピングによる損失軽減
まず、一つトルコリラ円の通貨ペアを保有した。
続いてカナダドル円の通貨ペアである。これはロングとショートどちらのポゼッションも保有することで変動がありロングに利益がのっても同じだけショートの損失を作り出す。つまり基本的にはプラマイ0なのだ。しかし、スワップ金利はショートのマイナススワップの方が大きいため。毎日マイナススワップ分の損失が発生する。
それでも両建てする理由として年末で今年の損益が確定するので利益のでているポゼッションのみを決済することで今年の損失を減らして来年に転移させる事が出来るのだ。ただカナダドル円の通貨に変動が無いほどマイナススワップ分損をするだけだが年末までに変動は必ずあると考える。
そして、スキャルピングは今まで通りにトレードを行い損失を減らすのだ。しかし、やり方を誤れば損失は膨らむのだが・・・
この一週間ムイシュキン公爵はポンド円の通貨ペアで戦い抜いた。
恐ろしい程の危険な戦場であった。チャートを見返すに、あの荒海と化したアドリア海戦以上にハードな上下運動があった。
。
そして週の半ばでそれは来た。急激な上下運動。少し目を離せば50ppは変動するなかで損失は簡単に膨らんだ。
「まただ。俺の持つポゼッションは8割がた腐る。何故だ。まさか、また為替相場レウコクロリディウムが・・・」
トータル損失マイナス45万で浮遊していたものが一気にマイナス60万まで膨らむ。しかし、ムイシュキン公爵も負けるわけにはいかなかった。今まで苦しい思いをして得た経験値と勘でポンドロングソードとポンドショートソードを使い分けなんとかマイナス45万まで押し戻した。
「またこの位置かよ。苦しい。」
真夜中の黄金荘でムイシュキン公爵はポンド円ロングとポンドスイスフランロングのポゼッションを決済し画面を閉じた。
これは正解だった。
次の日の夕方ポンド円の通貨ペアは数時間で350pp下落した。高レバレッジでロングポゼッションを持っていたFX戦士達はロスカットされ召天した事だろう。
「危なかった。あのままロングを保有していたらロスカットされていた。まるで光さえも重力に逆らえず吸い込まれるブラックホールだ。」
ぞっとした。
しかし、先週末のムイシュキン公爵の読みはあたっていた。アドリア海戦で上昇したポンド円は1ポンド149.40円を天井に現在144円台後半まで下落したのだ。
「あのまま149.20のポンドショートソード高レバレッジを握り続けていれば。」
ムイシュキン公爵は独りごちた。レバレッジが高ければ高いほど。変動の恐怖に耐えきれず利益が出れば決済してしまうものだ。
今はこの急激な下落の戻りを狙いポンドスイスフランロングソード低レバレッジで保有する。
果たしてエウレカ計画は成功するのか。
「こちらムイシュキン公爵。座標を送る。ポイント21.17。トルコリラのアビスは安定している。禁断の地エウレカはまだ遠い・・・」
ゴポポ
ムイシュキン公爵は暗い海の中で重い潜水服を纏いまたヒトリ静寂に溶け込む。
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