鉛筆:3年5組 フクザワ リッカ
受験では鉛筆によるマーク式だから。
そう言った塾講師は頭頂部が寂しい中年太りのオジサンだった。名門大学卒業した事を永遠と自慢してくるのには耐えるけど、喋る時に唇の端に唾が溜まっているのはいただけない、それは耐えられるキモさじゃない。
でも今日はそんな中年塾講師の入試数学の講座を受けなければいけない。
「リっちゃん、隣座っていい?」
視界に移った黒髪ベリーショートの女子高生は、違う学校の子だ。その子の鞄についてたラッドのラババンに私が反応したら、いつのまにか意気投合してた。
「いいよいいよ、今日もがんばろうぜ」
「がんばろうぜ、同士よ」
ケタケタと笑いながら筆箱から中くらいの長さの鉛筆を取り出す。高校入試ぶりに買った1ダースの最後の一本、Bの無地鉛筆。本番まではあと何ヶ月か。
「そういやさ、私、こないだの模試の結果で第一志望A判定だったのよ。もうこれが合格通知であってほしい」
先生、胸に致命傷を負いましたので今日の講座は休みます、救急車呼んでください。なんてふざけてはいられない現状。
「それ普通に凄いわ。私もまだまだ頑張んなきゃなぁ。志望校現役合格したいよなぁ」
「なに言ってんの、まだまだ時間はあるんだから」
チャイムが鳴った。
引き戸を開いて入ってきた、見慣れてしまったオジサンの講座は今年で終わりにしてやるんだから。
なんて意気込んで早々、九州大の過去問をやらされて瀕死に陥る。
やっぱり救急車呼んでくださいよ。
* * *
みんなが乗り越えてきた道だって、分かっちゃいるけど。
あと数ヶ月、鉛筆片手に机と向き合うのがもうそろそろ限界だという本音は溜め込まれたまま肥大して手に負えなくなった。
同じような問題と、無機質な活字と、テンプレ化した応援コメントに、期待と重圧と自分の理想。息苦しくて辛くて逃げたくて、後輩たちに交じって部室に居れば、そのうち囁いてくる自分の叱責。
嫌だよ、勉強ロボットにだけは成りたくない。
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「せかい」への参画に最初から疲れている少女の話
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