階段:2年5組 アイジマ ケイヤ

 別に人間関係が崩れたわけではなかった。虐められてもいなかった。教師と合わなかったわけでもないし、部活で揉めたわけでもなかった。

 ただ、なんとなく、漠然と、今の自分に嫌気が差したのだ。

 気が付けば教室から足は遠のき、学校内を徘徊して、駅前の商店街を徘徊して、気が向いたらバイトを入れて、気分次第で部活に参加して、飽きたら家に帰って布団を被る。

 そんな俺の態度を、別に親は咎めなかった。母に至っては「自分の人生だから好きにすればいいじゃない」と平然としていた。

 それでも、進級に最低限必要な授業数と課題だけはきちんと出し続けて、独学で予習をした。定期テストで上位50位以内を保ち続けると、それまでガヤガヤと口うるさくしていた教師陣も大人しくなった。

 そうなるとあとはこちらの自由だった。


 11月中旬。

 教室にストーブが支給された為にスペースが空いた、南校舎の屋上に続く階段。埃とカビと画鋲で汚れたその場所が俺の学校での居場所になった。屋上と言っても給水タンクしかない典型的な田舎の高校だったので、普段の生活でここに足を運ぶ人なんている訳もなく、1日中そこでのんびりと静かな高校生活を送れていた。

 唯一、そこが落ち着ける場所だったのだ。

 何かをしなきゃいけない焦燥感を意識の外に追いやって、学校中からの冷ややかな視線を忘れ去って、ふらふらと、その日の気分でやりたいことをやりたいようにして過ごせる場所だったのだ。


 * * *


 これでいい、なんて思ってはいない。

 今の俺は社会からは嫌われる存在だって自覚はあるのに、それでも、背伸びも我慢も真似事も全てを被って生きる覚悟がなくて、いつだって誰かに責められている様な気がしてならない。

 なんでこんなに息苦しい社会で生きなきゃいけないんだろう。

 正解は1つじゃない、って言うくせに、足並みがずれたら除け者なのかよ。

 __________


 「せかい」に認められたい青年の話

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る