少年シューゲイザー
亜保呂都留
少年シューゲイザー
靴を見ながら歩く。僕の靴の中にはシロクマがいる。正確に言えば、僕の真新しい革靴の中に敷いてある中敷きには、シロクマがプリントされている。僕は履いている紺の靴下、それと僕の足越しに、シロクマを見るのだ。
「シューゲイザー。」
ふいに隣から聞こえてきた声に顔を上げる。
「何靴見ながら歩いてんの、そんなに地面に落ちてるかもしれないガムが怖いか?」
そう言ってぷくぅと紫がかったピンクのガムを膨らませた。栗の渋皮のような色の後ろに軽くなでつけられた髪がふわりと揺れていた。
「違う、僕はただ、シロクマを見ていた、だけ。」
少しだけ、馬鹿にされたような気がして、僕は掠れ気味の声で強く否定した。すると、彼は目をまんまるく見開いて大袈裟に驚くような素振りを見せ、赤いフレームの眼鏡の奥で破顔した。
「シロクマァ?キミ、足にシロクマ飼ってんの?」
にやにやしながら聞いてくる。
「ん、えと、靴の中敷き。シロクマの絵が描かれてるの。」
「それで靴見てたの?」
にやにやと。段々近づいてきている気がする。手と手が今にも触れ合いそうだ。
「う、うん。」
なんだかとても恥ずかしくなってきた。
「きみ、なんか、面白そうだ!」
ずいっと距離を縮められる。
「ぼくはトロイだ。きみは?」
「
やっぱり馬鹿にされてるのだろうか。確かに靴の中敷きにプリントされたシロクマを想いながら靴を見詰め歩く僕は少し頭が弱いように思える、でもそれで本人が幸せなんだから、とやかく言う必要はないじゃないか。それに、俯きがちに歩いている人なら僕以外にも、例えば向こう側の歩道でねむそうに歩いてる子とか、とにかく何人かいるじゃないか。なんで僕に声をかけたんだ。嬉しいけど。転校初日で、声をかけてくれるのはとても嬉しいのだけれど...!
「ん?なんでそんなにじっと見るの。ぼくの顔がそんなに美しいか?...ああ、ほら、もう行かないと。時間ないよ。」
ほらほら、と僕を急かす。細く薄いだけど温かな指が手首に絡み付いて、引っ張られる。
今日初めて見上げた空は、澄んだ海のように青くどこまでも広がっていて、きっと一生この光景は忘れられない、そう思えた。その瞬間、この世の何よりも美しく見えた空と、その下で跳ねる茶色い髪の毛、白い背中。まるで絵画のようだった。
少年シューゲイザー 亜保呂都留 @naitouhiu
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