第3話 ワクワクパーティー
「遅いよ、短小、カントン、ちんこ!」
宴会が催されている食堂に行くと、すぐに榊が声をかけてきた。
榊は俺の肩をバンバンと叩き、自分の顔と同じくらい赤いレッドアイを飲み干す。
馴れ馴れしい榊の手を払い、パイプイスに座った。
以前は、広い食堂に満遍なく自然光が行き渡るように計算されて配分された天窓が、白を基調とした室内を優しく照らす中、整列した食卓で社割のランチを頂きながら工員たちは談笑をし、午後の作業に備えていたのだろう。
しかし、今は野郎がワイ談で盛り上がり、酒を酌み交わし、白かった部屋も煙草のヤニで黄土色に汚れ、場末のキャバレーに成り果ててしまった。
コンパニオンはたった一人で、ステージ代わりの中央の円いテーブルの上でショーの真っ最中だ。
コンパニオンの名前は【レミ】という。
「今日も、ハッスルなダンスでイケイケだぜ、レミ様は!」
榊は立ち上がり、昭和のお調子者を演じ、指笛を鳴らした。
酔っぱらった同僚達は真っ赤な薄いワンピースを着たレミを囲い、次々と彼女に手を差し伸べている。レミはそれに反応してわらわらと群がる手に顔を近づけるが、キスの寸前で柱に繋がれた首輪に引っ張られ、ごふっと息をもらす。
白く細い首が内出血で青く変色しても彼女は暴れ続ける。ワンサイズ大きいワンピースがはだけて、成長途中のささやかな乳房が露わになる。
男どもの劣情は爆発し、我先にと桃色の乳首を求める。
俺はタバコに火を点け、ストリップを遠目に眺めた。
ダンスなんて、いい代物じゃない。ただ、足がおぼつかないだけだ。
キスなんて優しいもんじゃない。ただ、歯をカチカチと鳴らして食らおうとしているだけだ。
レミ、年齢にすれば、十五、十六歳だろうか。目鼻立ちが整っていて、白濁した目をぐるぐると回転させていても、少女のあどけなさと美しさが消失する事はなかった。
レミは腐敗しない活動死体だった。
美しいレミを女に飢えた男共が見逃すわけがなかった。
「がまんできーん、カウパーさんダダ漏れなんだもの―」
榊は、素早くズボンを脱ぐと、粗末なチンコを縦横無尽に振り回し、ギャラリーを押し退けると、壇上に登り、レミの股下に首を突っ込んで、彼女の陰部を見上げた。
「絶景なり!絶景なりぃ!」
と、叫び、愛撫するように舌をチロチロと出し、激しくチンコを擦る。
榊はあっという間に絶頂に達し、この日の為に溜めておいた黄色みがかった精液を噴射し、レミの太腿にかけた。
それを合図とするかのように、他の奴も壇上にあがる。ひとりが、噛みつかないように、レミの鼻の穴に指を突っ込み、無理矢理、顔を上げた。
ふごふごと鼻息を荒げるレミにバカ笑いをあげる男どもは、スレンダーな彼女の肢体に群がり、欲望のまま彼女に触れる。
以前、活動死体を犯した隊員が絶頂に達する前に即活動死体化をした事があり、流石に酔っ払いでもそこはわきまえている。少女の柔らかな肉体の感触を楽しみつつ、一斉にオナニーを始める。
唾液と精液がレミを汚していく。
あーあーあーという甲高いレミの呻き声に耐えかね、俺は、タバコの火をもみ消し、席を立った。胸くそ悪い。
「なんだ、帰ってきたのか」
部屋に戻る途中、トイレから出てくる隊長とばったり出くわした。
「いやあ、若いもんは発情期の犬だね」
まん丸のえびす顔にほくほくとした笑みを浮かべ、隊長は言った。
「持ってきたかね」
「は?」
「千羽鶴はちゃんと持ってきたかね」
少し苛立ちを見せて、隊長が言った。
食堂に置いてある事を隊長に告げると、満面の笑みを浮かべた。
「では、始めるとしよう、君も来なさい」
手招きをする隊長に聞こえないように俺は呟いた。
「くそったれ」
隊長の命令は絶対だ。
「これから、千羽鶴の義を始める」
隊長の一声で、騒いでいた隊員達はステージから降りて、一列横隊に整列した。
ほらな、絶対なんだ。
「君、レミ様が粗相をしないようにしてあげなさい」
「失礼します!」
風俗でしか女を知らない立川が愛用のボールギャグをレミにくわえさせた。
「おい、ちゃんと拭いてあげなさい」
「はっ!失礼いたします!」
匍匐前進よりもごますりが得意な砥部が、ボールに開いた無数の穴から唾液を垂れ流すレミの身体に飛び散った精液を清潔なタオルで綺麗に拭き取った。
「榊二等陸士、前に」
「はっ!」
榊は前に出て、レミに向かい敬礼をした。しかし、酔っぱらいは酔っぱらいだ。本人がしっかりしているつもりでも、ふらふらと身体が揺れている。
俺が差し出す千羽鶴を手に取ると、レミの前に立った。
榊は一礼すると、仰々しく千羽鶴をレミの首にかけた。
「レミ様、いつもありがとう」
榊は声を張り上げ、隊員たちが後に続く。
「レミ様、いつもありがとう」
「部隊に癒しをありがとう」
「レミ様は部隊の太陽だ」
「レミ様、万歳!万歳!万歳!」
「死んでいった者達よ、安らかに」
「さあ、慈悲の弾丸を与えよう」
「そして、許しを乞おう」
「黙祷!」
静まり返った食堂にレミの苦しそうな荒い息遣いが響く。俺は、ホルスターからリボルバーを抜き黙祷中の野郎どもに銃を向けた。
これが千羽鶴の儀だ。レミに対する感謝と死んで活動死体に成り果てた者達に、慈愛に満ちた集団の想いがこもった千羽鶴を捧げる儀式だ。
この光景をみると、いつも胸の奥からぐつぐつとこみ上げてくる何かがある。それは、黒くてあのラーメン屋のこびりついた油の様に粘ついていて、のどに絡みつくんだ。
黙祷が終わり、酒とタバコの臭いが再び充満する食堂を出た。
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