1‐6 居酒屋

ふと君と出会ったばかりの時のことを思い出した。

君が好きだった。大好きだった。


2年後の夏、いま少し大人になった君が目の前にいて、お酒を飲んでた。

あの頃には二人もう戻れないっていうのをお互い主張し合ってるみたいだった。


君が「このあとどうする?」と言った。私は『もう帰るよ』と言った。

お会計を済ませて、駅までの道を二人で歩いた。

『門限があるの』というと君は驚いた。「この年になって門限あるの?」と。


最後に写真を撮りたいというと、君がカメラを持って撮ってくれた。

お互い分かってた。私が君への連絡を絶とうとしていることも、君に新しく大切な人ができたことも。全部わかっていた。


『髪を切ったの。』と言おうとしたら、「髪切ったんだね」と言われた。


最後に君は「そっちの方が似合っているよ」と言ってくれた。

「俺、ショートの方が好きなんだよね」と笑っていた。

知らないふりをしたけど、本当は知っていた。君のことが好きだったから。


じゃあ。って二人で言った。君が「ちゃんと改札通るまでここで見てるよ」って言ってた。これが最後だった。

振り返ってあなたをみた。手を振ったら、振り返してくれた。大好きだった。

私が見えなくなるまでそこにいてくれた。

下りのエスカレーター。

お気に入りのシャツを握りながら、自然とこぼれてくる涙をぐっとこらえた。


さようなら。大好きだったよ。ありがとうと心の中で言った。

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