滲んだ小包

@toshiyo-f

滲んだ小包

 脳卒中で倒れた祖父が記憶障害になった。意識を取り戻した祖父は、娘はまだ高校生だと言い、その先の事は全く覚えていなかった。

 現在の話を聞かされても、突然平行世界に来てしまったように混乱し、一時、錯乱した。


「何がわからなくても、いいじゃない。」


 看護師さんに、そう諭されて落ち着きを取り戻し、退院出来るまでになったが、年齢的にも認知症へと移行する可能性を聞かされていた。


「じいちゃん、元気?」


 退院した祖父の見舞いに行くと、何やら荷造りをしていた。何処に送るのか尋ねると、娘に子供がいると聞いたから、離れて暮らしている娘に送るのだと、どこか可笑しそうに話してくれた。まだ見ぬ孫に会う日を楽しみにしているかのようで、中には子供が喜びそうなスナック菓子が詰まっていた。


「きっと、喜ぶよ。」


 持ち帰ろうと思い、発送を引き受けて荷物を車に積んだ。「ここに居るよ。」とは、何故か言えなかった。いつかの私へのプレゼントだ。そう思うと、夏色のサイダー弾ける祖父と過ごした日々が溢れ出し、視界が歪む。


 先の見えない介護生活が始まりを告げたばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

滲んだ小包 @toshiyo-f

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ