第30話 決戦

 - NOB 生体増強ステロイド開発室 -


[モウマクスキャンヲシテクダサイ]


 ピーーー


 カチャン


 プシューー


「所長、ダリロフがやられちゃったようだね?」


「大野さん!いらしたんですか?」


「ついさっき、ライギョマン軍団も天竜村に入ってきたよ!」


「さっき、中神さんからも連絡がありました。」


「今回こそは、ライギョマンを倒して、ベルトを取り返さないと、君の首も危ないよ?(笑)」


「わかってますがな!とうとう、こいつを試す時がきました。」


「グレイト・ワン用のステロイド?成功したんだ?」


「最初の二匹に投与して、実験はほぼ成功しています。それをグレイト・ワンの遺伝子に適合させるのに苦労しましたがようやく完成しました。さっそくグレイト・ワンに投与します。」


「大丈夫?失敗は許されないよ?」


「大丈夫です!わし天才やから!はははっー!」


「まー、ゆっくり見させてもらうよ。今日中に中神さんも合流するから、ヘマだけはしないように?」


「わかってますがなー!」


 

 - 天竜村マジョーラ支部 -


「仲松さん!ブリッツェンのチェックOKです!上田くんのストレングスマイルドもバッチリです!」


「ありがとう来栖くん。そういえば、上田くんへ、浅井さんから、これを預かっていたんだ。」


 仲松さんから手渡されたものはリールだった。


 「ブラックピッグ?」


「生前、飯見さんが、使っていたものだよ。天竜湖の畔に落ちていたものをマジョーラの仲間が拾ってきてくれたんだ。ボロボロだったけど、スローイングのメカニックが直してくれたんだ。」


 手にしたブラックピッグには、歴戦を物語る傷があちこちについていた。


 飯見さん…。


 "大丈夫や、さぶろー!心配すな!俺がついとる!"


 飯見さんがそう言ってくれている。そんな気がした。


「仲松さん。言われた通りの準備は全て整いました!」


「ありがとう。あっ、上田くんは初めてだったよね?」


「はい。」


「彼はマジョーラメンバーの坂村さん。」


 デカっ!!!190以上ありそうだ。


「はじめまして上田です。」


「はじめまして、坂村です。噂は色々聞いてますよ!」


「ありがとうございます。」


 ヤットデタマンの小山高生を思い出した。


「彼は今日までスパイとして、NOBに潜り込んでくれていたんだよ。」


「え?そうなんですか?」


 突っ込みどころ満載だ…、そもそも目立たないのがスパイのイロハのイではないのか…?


「いやー、色々苦労しましたよ(笑)」


 そりゃそうだよ…、目立ちすぎ…。


「まー、それも今日で終わりです。これで、群馬に帰って、趣味のジムニーいじりができます!」


 え?ジムニー??ランクルにでも乗った方が…。


「ご苦労様でした!気を付けて帰って下さい!」


「では、ご武運を!」


 坂村さんは村を後にした。


「さあ、行こうか。」


「「はい。」」


 綾南高校を勢いづかせた仙道の言葉と同じじゃないか!スラムダンクファンの僕はシビレた!きっと、仲松さんと来栖さんは、このことは知らないだろう。僕は一人、彦一の気分を味わい、勝手に勢いづいた。


 この後、最大の恐怖が訪れるとも知らずに。


 今年何度目の洞窟だろう。

 子供の頃、幾度となく通り抜けた洞窟。

 ここで剛三さんと出会って、僕の人生は180度変わった。

 もしかしたら、これが最期になるかもしれない。

 そう思うと、体中から冷や汗が吹き出してきた。


「上田くん、大丈夫?気分が悪そうだけど?」


「来栖さん、大丈夫です。もう少しで出口です。気を引き締めましょう。」


「あまり気分が悪いようなら引き換えそう。」


「大丈夫です。今日決着をつけましょう。」


「よし、出口だ!上田くん、来栖くん、いきなりガバっとくるかもしれないから気をつけよう(笑)」


 なんでこの人はこんなに楽しそうなんだ?ここへ来ての、この図太さはすごいとしか言いようがない…、仲松宏樹恐るべし…。


 ソローリ


 キョロキョロ


 洞窟から顔を覗かせたが、特に危険な感じはなかった。それどころか、今日の天竜湖は静寂に包まれていた。


「おかしいですね?何の気配も感じませんが?」


「ホントだね?」


「このまま湖畔から、距離をとって回り込みましょう。」


 3人は静かに歩を進めた。暫く歩くと、来栖さんが声を上げた。


「なんだあれ?」


 よく見ると湖から、何か巨大なものが這ったような後が森へと続いていた。


 ゴクっ…。


 僕の緊張はピークに達した。


「もうライギョマンに変身した方がいいですかね?」


「いや、まだ早いよ。君の変身持続時間は五分がいいとこでしょ?ここぞって時じゃないと無駄になっちゃう。」


 そうなんだ、ライギョマンに変身出来るようになったのはいいが、僕の体力では、変身持続時間はせいぜい五分…、おまけにブラックピッグを装着したストレングスマイルドをフルキャスト出来る回数もせいぜい10回程度…、こんなんでグレイト・ワンに太刀打ちできるのだろうか…?


「心配してもしょうがないよ。なるようにしかならないから(笑)」


「そうだよ上田くん!やるだけやってダメならやむ無し(笑)」


 この二人のポジハラマイペースは僕には毒だ…。


と、その時


「上田くん、来栖くん、下がって!」


 仲松さんが、森を見ながら叫んだ。


 仲松さんから、笑顔が消え、勝負師の顔へと変わった。


「な、なにかいるんですか?」


「うん、いるね。ちょっと近づいてみるよ。」


「き、危険ですよ!」


「大丈夫。」


 僕と、来栖さんは離れて見守ることにした。


「おーい!安全が確認できた!こっちへ来てみな!」


 なんだろう?僕と来栖さんは森へ駆け寄った。


 !!!!!!


「なんだこれは!!!」


 森の中に巨大な塊がある。


「この塊はなんなんですか?」


「脱け殻だよ。」


「「脱け殻??」」


「おそらくね。上の方を見てごらん?セミの脱け殻みたいに中身が出た跡があるだろ?」


 ホントだ。この大きさからするとグレイト・ワンの脱け殻に間違いない。


「な、仲松さん?じゃヤツは??」


「成獣になったってとこかな?想定外だね。おそらくヤツは更に進化したに違いない。」


 ポジハラ王の仲松さんをもってしても、想定外だというのか…


「まー、なるようにしかならんよ!(笑)」


 ………。


 と、その時!


 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォーーーー!!!


 突如地鳴りがした!


 ズザザザザザザー!!!


 バキッバキッバキッ!!!

 辺りの木々がなぎ倒されてゆく。


「しっ、しまったーー!背後を取られた!ヤツは地面の中だーーー!」


 ゴオオオオオオオオオオーーー!!!


 ドン!!!!


 地面が割れてヤツが姿を現した!グレイト・ワンだ!


「うわぁぁぁぁぁーーーー!!!」


「来栖くん、落ち着いて!」


「こうなったら、ライギョマンに!ライギョマンに!」


「待つんだ!まだその時じゃない!」


「みんな食べられちゃいますよ!」


「いいから落ち着くんだ!」


「おっ、落ち着いてなんか!!!」


 と、その時、


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