第18話 ライギョマン1

- 天竜村役場-


「ほ、ほんまですってー!中神さん!わしは、ほんまに知らんのです!せ、せや!山田や!山田がやったに違いない!」

「対生物兵器用スーツが紛失したとあっては、所長の管理責任が問われますね。」

「ほ、ほんまに何にも知らんのです!昨日までは確かに研究所のシェルターの中に…。」

「まー、本当に知らなかったとして、その山田さんなんですが、三日程前から連絡がつかないんですよ。」

「や、山田と??あいつめー、やはり犬だったか!クッソー!」

「まあいいです。対生物兵器用スーツがどれほどの力か試す絶好の機会です。」

「そ、そ、そーですよね?ハハハ…、いい人体実験ができますね!ハハハ…。」


 ギロっ。


 ………。


「所長の処遇は、この結果を見てから判断させてもらいます。」

「お、お任せ下さい!あのスーツならバッチリです!」


 ”今にみておれー、クソ青二才めー!わしのかわいい生物兵器共が完成したら、国家ごと転覆させて、便所の中のタン壺に頭から突っ込んでやるからのー!”



 - 天竜湖洞窟前 -


「あなたが飯見さんですか?」

「せや、君が上田くんか?」

 なんだろう?飯見さんの声を聞いたとたんに、幼い頃釣りをして楽しんでいた天竜湖の風景が頭の中をよぎった。

「ふなぞーさんから、色々とお聞きしています。とりあえずマジョーラから預かった荷物は洞窟の中に隠してあります。」

「すまんのー。」


 寡黙な人だな?


「ふなぞーさんに、天竜湖まで案内してくれと頼まれています。僕が一緒に行っても足手まといなだけですが…。」

「そないなことあらへん。心強いで。」

「とりあえず、細かい話は、洞窟に入ってからに。」

「せやな、よろしく頼むで。」


 天竜湖までの道中、僕はこれまで目にしてきたあらゆることを飯見さんに話した。剛造さんのこと、トローチのこと。飯見さんは、僕の話を、時折頷きながら、静かに聞いていた。話を聞くにつれ、飯見さんの静かさの中に秘めた闘志が、みるみる大きくなっていくのが、僕にも分かった。飯見さんの握りしめた拳から、血が一滴また一滴と滴っていた。


「そっか、君が剛造の最期を見届けてくれたのか。ありがとう。」

「そんな…、僕はなにも…。」

 ”成す術なく見届けることしか出来なかった自分が不甲斐ない。”

「飯見さん、これが対生物兵器用スーツです。」

「ありがとう。君はここまででいい。あとは俺の仕事や。」

「いや!僕も行かせて下さい!足手まといは十分承知です!でも僕にもやれることがある筈です!」

 

 しばらくの沈黙の後、飯見は口を開いた。


「わかった。でもいざというときは必ず逃げてくれ。」

「わかりました!」

「約束や。」

「はい!もうすぐ洞窟の出口です。」


 僕は何故、あの時、一緒に行きたいと言ったのだろう?

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