第3話 天竜村

 僕の名前は上田三郎30才。身長168センチ体重60キロ、性格控えめ、趣味2ちゃん、天竜村役場勤務、30年間彼女なし、

 僕の住む天竜村は東京都心から車で三時間半の山合にある。電車は通っておらず、最寄り駅からバスで一時間以上も掛かる。主な産業などは特になく、寂れたゴルフ場兼スキー場が一軒あるだけだ。宿泊施設なども当然ない。標高も1000m近くあり、まさしく陸の孤島と呼ぶに相応しい。しかし、近年、田舎暮らしに憧れる、都心からの移住者が増え、人口は増えつつある。


 そんな天竜村だが、実はある秘密がある。


 人口4200人、村の八割を山林が占め、主な産業は林業と養蚕、そんなとりわけ何の変哲もない村に、突如、村を二分する大騒動が巻き起こった。

 僕の生まれる10年前、1978年、今からちょうど40年前、国が天竜村に放射性物質の処理場の建設を村に迫った。

 処理場が出来ると潤う、政治家や建設業者らにそそのかされ、村人の半分は建設に賛成し、反対する住人と対立した。

 最初のうちは話し合いで解決しようとしていた賛成派であったが、一向に話が進まなく、業を煮やし、ついには暴力団を仲介して、反対派の家に嫌がらせを始めた。この嫌がらせに、あるものは村を去り、あるものは賛成派へと加わった。しかし、村長ら反対派の気骨溢れる何人かは、脅しに一切屈指なかった。この村長らの行動に反対派へ回る村人も増え始めた。そして月日は流れ、村人の7割が反対派へと転じたある日その事件は起こった。村長の突然の死である。警察は村長の死を自殺と断定。これに意を唱えた、反対派の村人が結集し、建設業者の建物や、賛成派の政治家の家を襲撃した。世に言う天竜騒動である。死傷者まで出し、全国的に取り上げられた事件なので、ご記憶の方もいるのでは?

 その後、国が介入し、多額の金を積んで、反対派を説得し、処理場は完成した。


 天竜湖脇に建設された処理場であったが、バブル崩壊、阪神大震災による電力事情の変化により、廃墟と化した。しかし、それは建前の話で実際には放射性事故を起こし封印されたのであった。

 この事実は一部の関係者を除き極秘扱いとなった。


 そして天竜湖は地図から消された。


 放射能処理場が完成し程なくすると、村人の間である噂が囁かれるようになる。

 "天竜湖にはオバケが出る"と

 奇しくも少年時代に出会ったあの人の言葉が現実のものとなった。もしかしたら、あの人は、このことを知っていたのかもしれない?


 全国の行方不明者数は平均して年間1000人前後である。しかし、ここ天竜村での行方不明者数は年間10人。実に全国平均の1%もの数である。5000人弱という人口を考えると、驚異的な数字である。もちろんこれは村人の行方不明者数ではない。天竜村に訪れ行方不明になった者の数である。しかし、これは全く公表されることはない。なぜならば地図から消された天竜湖で失踪した者の数だからである。この事実は一部の者にしか知らされていない。この時、僕は当然知るよしもなかった。


 あの惨劇を目にするまでは…。

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