第16話 殷賑の仮面・切れ端
これが申込用紙とかしっかりあるのに結構途中参加が雑にできるから、不破さんと八科さんがいない日は私も真面目に勉強したりするわけである。
先生からちょっとは感心されたりするけど、まあ暇だから来てるだけである。夏休みの宿題、なんだかんだすぐ終わっちゃったし、難しかったところも八科さん達のおかげで結構分かってきた。これで不破さん達に少しは追いつけるかも。
なんて、成績はまだまだなんだけど。
「おや貴女は……」
私かな? と思ってみたけど、その人はきょろきょろ周りを見渡して、私の方を見ていない。
が、喋る時は私を見る。
「八科智恵理は?」
と言われて、風紀委員の人だと思いだした。八科さんをめっちゃライバル視してるっぽい人。特徴そんなにないから印象薄いんだ、この人。
「今日は私だけ。二人とも暇じゃないから」
「補講は暇だから来る場所ではありませんよ。けれど、友達がいなくても学びに来るとは
「へへ。まあ二人とも凄いから……」
この人のことどうでもいいけど、褒められると少し嬉しい。不破さんとか八科さんはそういうことを言ってくれないし、ね。
「そう、二人ともと言えばこの間起きていた生意気な方。彼女が不破未代らしいですね」
「うん。知ってるんだ。朝日中学じゃないよね」
「ええ。ですが八科智恵理と共に成績を二分する優等生。まさかあんな人だったとは……」
この人ナチュラルに失礼だな。不破さんがいたら怒って……いや煽り散らかすか。性格悪いもんな~不破さん。
今日は私とこの人を合わせても生徒は十人いるかいないか程度、昼になれば補講は終わって解散になるだろう。先生も大変だろうけど、先生の小遣い稼ぎなのでは……なんてことも囁かれてる。暇じゃないだろうけど。
「ところで、聞いてみたいことがあるのですが」
結構、この人しつこいな。
「なに?」
「八科智恵理は何故部活に入らないのですか?」
「前言ってたじゃん。私という先約がいるからだよ。友達、大事」
「それはごもっともです。が、八科智恵理の能力を何かしら活かさないのは、もはや世界的な損失だと思いませんか?」
世界とまで来たか! あまりの熱弁に、次の授業を待つ先生までちょっと引いている。時間来たら始めてくださいよ、授業。
「友情に活かしてるんだって。不破さんを軽々と運ぶ、それはもう軽々と」
「それは不破未代さんが自立すればいいでしょう……。運動部に入れば、少なくとも陸上部なんかは県大会どころか全国だって狙えるでしょう?」
「本人にその気がないなら言っても無駄だよ」
本当にしつこい、というか一学期終わる間近になっても勧誘に来てたやたらテンション高い人もいたなぁ、と思い出す。八科さんを諦めきれない人は今でも結構いるみたいだ。
「なら、貴女から言ってくれませんか? 部活に入っても友達でいられるでしょう?」
「……えぇ」
考えるのが面倒臭いようなことを言い出した。理に適ってるから面倒臭いのだ。
なんでこの人とそんな不毛な議論をしなくちゃいけないんだろう、という嫌な気持ちにされながら、適当に反論を考える。
「でも部活ってお金とかかかるし、簡単には薦められないよ」
「それは確かに。では軽くバイトなどすれば……」
「私と遊ぶ時間なくなるじゃん」
「……確かに」
なんとか説き伏せたかな。風紀委員は不満そうな顔で佇んでいる。
この人の言うことも分かるけど、私は世界のためも学校のためも知らない、自分のためしか考えない。
だって、八科さんがそれをしたいって言わないから。本当にしたいなら、好きなら、きっとそれくらいは言ってくれる、って信じてる。ちょっと自信ないけど。
毎度毎度勧誘してくる人にはちょっと申し訳なさがあるけど、こっちとしては
こういう部外者は特にね。八科さんが説得できないから私を、っていう考え方がまずズルい。
「じゃ、補講始まるし」
「そうですね。失礼しました」
ちっともそうは思ってなさそうだけど。失礼だと思うならあまり関わらないでほしい、私にも八科さんにも。
が、授業が終わると結局やってきた。
「あの」
「なに? もう帰るんだけど」
「少し話しませんか?」
「正直、相手してらんないんだけど」
「何故八科さんと仲良くなれたのですか?」
有無を言わさず彼女は質問をぶつけてきた。話の内容が変わってるし、えらく真面目な顔をしているから、私も一考する。
まあ、何故と言われても答えようがない、ってことに気付いたけど。
「私と八科さん、仲良く見える?」
「……はい?」
「仲良く見えてるなら安心だけど、私はいまだに八科さんと仲良くなれてる自信ないから」
結構、正直に言ってしまった。けど向こうが気まずそうにしてくれたから、そのまま無視して帰ることにした。
八科さん見習って、ひと眠りしたら復習でもしようかな。……不破さん見習って寝るわけじゃないけど。
――――――――――――――――――――――――――――――
『私はいまだに八科さんと仲良くなれてる自信ないから』
風紀委員なんてしているから、私は他人に冷たくされることは多々ある。少し悲しいと思うけど、仕方ないって踏ん切りがつけた。
ただ、彼女は少し他と違った。私を露骨に嫌悪しているのは確かだが。
(八科と上手くいっていない、のか)
あまりない経験だった。ああもあからさまに不和が見えると、こちらまで妙に不安になる。
他人を悪く言うような――私を相手に陰口を叩いたのか、あの女は。
クラスの朝日中学の生徒が、八科に友達ができたことを珍しがっていた。それはどうも余程のことらしく、そういえば八科と仲良くできる人間など大したものだと
だが実際はそうじゃなかった。あの、女、名前を憶えていないのだが……。
『樋水 楓』
覚えていてもいい名前だ。彼女のことをもう少し知っておきたい。八科智恵理のことが気になるのが一番だけれど、どうも彼女に何かしら別の興味が沸いたらしい。
『仲良く見えてるならいいけど』
そう、樋水は言った。まるで仲が良いかどうかはともかくとして、周りから仲良く見えていればいい、と言っている風だった。
彼女は八科のことをどう思っているのだろう。全く興味がないのなら一緒にいるわけもないだろうが、それほど強い関心があるわけでもないのか。それとも自分でそう言い聞かせているのか。
本当に上辺だけの関係でいいのなら部活に誘ったりするだろう。樋水はなにか不思議な考えをしている。
もう少し、話をしてみたいと思った。二学期にでも彼女の考えが変わっているのならいいが。
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