六 頼朝の来訪
にもかかわらず、彼らは
都の貴族たちのために、彼らは搾取され続けてきた。
ゆえに、坂東はつねに中央から独立せんと戦ってきた。
関東独立運動の原動力となったのは、いつでも坂東の武者たちだ。
「なれば坂東武者の本拠、見物せぬ手はないわ!」
七歳の政子=信長は、全力で止めにかかる兄弟の手をかい潜り、単身
「さすがに駄目だぞ政子」
無理だった。
「ええい兄者よ! 離すのだ!」
むんずと首根っこひっつかまれた政子は、十歳の兄
「コネもないのに小娘一人で出向いて誰に会えるわけでもないだろう。僕が使いに出ることがあれば連れて行ってやるから、頼むからそれまで我慢してくれ」
さすがは政子の理解者だ。
行かない、という選択肢は最初から放棄されている。
「待てぬわっ!」
それでもなおかつ即座に出発したがる問題児であった。
◆
「いますぐ行く」「ちょっとだけ待て」
兄妹が北条屋敷の庭先でそんな押し問答をしている最中。
ふいに。
「
と、来客があった。
暴れまくる政子を後ろ抱きに抱えながら、やっと顔をあげた宗時は、あわてて背筋を伸ばした。
従者を連れた貴公子――
「こ、これは頼朝様っ!? 失礼いたしましたっ!」
と、
「おお、参ったか! よく来た!」
「こ、こら、政子!」
魔王オーラ全開でふんぞり返る政子を、宗時があわてて引きとめる。
「政子、控えろ! この方を誰だと思ってるんだ!」
「ふふん。知っておるわ。武家の棟梁、
「わかってるなら控えてくれ!
「ああ、よいのです」
手を挙げて宗時を止めたのは、頼朝だ。
逆の手では色めきだつ従者を押しとどめている。
「――政子殿とは既知の間柄です。その性格もよく知っています。咎めだてする気はありません――
「……頼朝様がそうおっしゃるのでぇあれば」
三十がらみの従者は、
魔王オーラ全開の政子にも気後れしていない。そんな従者に政子はかつての部下、羽柴秀吉の面影を見て、にやりと笑った。
従者は政子を上から下までじっとみて、眉をひそめた。
「――しっかし頼朝様、感心できませんなぁ。すこしは相手を選ばれませい。まだ
「藤九郎。違います。政子殿と私はそのような関係ではありません」
「うむ! わしが勝手に家に乗り込んだのだ!」
あわてて否定する頼朝に、政子が無自覚に畳みかけた。
「……頼朝様?」
「違いますよ藤九郎! そのような疑いの目で見ないでください! 恨み
そんな主従のやりとりを尻目に、北条宗時は頭を抱えていた。
自分の妹の、もうどこから突っ込んでいいやらわからない問題児っぷりに対してである。
◆
藤九郎……安達盛長。頼朝の乳母、比企尼の娘婿。頼朝の従者。
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