三 平治の乱
そのことが信長=政子の耳に入ったのは、すべてが終わってからだったが、事の経緯は政子も
平治の乱。
源氏と平家の血みどろの争い。その始まり。
「政変の主導者、
武門の家である平家が、国家の政道を一手ににぎる、その
やがて平家は勢力を伸張し、名だたる名家を脇に押しやり、栄耀栄華を極めることになる。
武家の世が始まる、その黎明。
そこに、戦の匂いをたしかに感じて、幼い娘は笑う。
「まちゃに、
それは政子――いや、戦国の魔王信長にとって、故郷のごとき心地よさを感じさせるものだった。
◆
さて。数年が経ち、政子も満五歳になった。
五歳にもなれば、それなりに動けるし走れる。
兄の
成長とともに、魔王オーラはいや増すばかりで、そこらの大人や野盗など、悪心を起こす前に逃げ散ってしまう。
格好も酷い。
まるで
「やいやいやい、修羅姫さんよォ! オイラん土地で、でっかい顔しやがるじゃねえか!」
それゆえ、狭い北条郷を越えるとこんな連中にも出くわす。
政子たちの前に立ちふさがったのは、子供ばかり三十人あまり。
敵、というわけではない。近隣の土豪の子供連中が、自分たちの土地に近づく政子たちに突っかかって来たのだ。
「政子、どうする」
「知れたこと」
兄宗時の不安げな視線に、政子は口の端をつり上げて答えた。
「――遊びよ。石合戦と
魔王オーラ全開だ。
宗時は引いている。
信長にとって石合戦の指揮など慣れたものだ。
本当の戦であれば、もっと慣れているのだが、これは遊びだ。
数は、北条側の子供たち15に対して相手側は30。
劣勢とはいえ、そして遊びとはいえ、さきの第六天魔王、北条政子が指揮する子供たちだ。負けることなどあってはならない。
「者ども、かかれ、励め、そして――滅せよ!」
無茶を言う。
石合戦には勝った。
◆
その後も、政子は子供たちに、遊びを通して戦の仕方や諜報のやりかた、そして上下関係を魔王式スパルタで叩き込んでいく。
いずれ起こるであろう、源氏と平家による、天下を巡る争いを睨んでのことだ。
「くっくっく、精鋭を作り勢力を広げ、牙を研ぐのだ。このわしが、
そんな風に野心を燃えたぎらせる魔王だが。
「……すまん政子。言ってることがさっぱり理解できん」
「しっかりせぬか兄者!? 一族の子供で一番頭のいい兄者がそんなことでどうする! わしの心を折る気か!? もうわし泣くぞ!!」
その道のりは、はるか遠すぎる。
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