第644話理性的に生きてますよ?

「ハクア。それなんなの?」


「うーん。わからん」


「え? だって目録あるんっすよね?」


「そうなの。それ見れば分かるはずなの」


「いえ、実はそれについては私も分からず何も書いていません」


 そう。テアの言う通りこれについては何も書かれずに"???"となっている。


 占い師が使う水晶玉程の大きさのそれは、一見すればただ黒い宝玉のようにも見えるが、何やら内側に感じる力はあからさまに普通ではない。


 しかしそれなのにテアにさえ分からないというのがまた興味深い。


「で、お前はそれを選ぶのか?」


「いや、私がってよりも……コイツが?」


 そう言ってトリスの疑問に答える為に片手を出してとある人物を呼び出す。


「「「え? ええええぇぇ!?」」」


 私が手の平の上に呼び出した人物を見て、神達とおばあちゃん以外の全員が驚きながら後ずさる。


 ナイスリアクション。


「ハ、ハクア。それってもしかしてもしかしなくても……べ、ベルフェゴールじゃないの!?」


「うん。そうだが?」


「そうだが? じゃ、ないっすよ!?」


「ど、どどど、どうなってるの!? 大変なの!?」


「まあまあ、落ち着け」


 テア達やおばあちゃんには話したから言ってたつもりになっていたが、どうやら忘れてたみたいだ。


 と、言うわけで改めて説明。


 邪神の消化が終わると同時にスキルを獲た私だが、それと同時に現れたのがコイツ。


 どうやら元の記憶は残っているが、基本的にはスキル補助の為の疑似人格扱い、私の魂から造られたサポート役の使い魔のような存在らしい。


 テア達曰く、私に対して牙を剥く事は絶対にないそうで、本人にもその意思はない、むしろ私の使い魔扱いも喜んでいるくらいだ。


 出来る事は一部私の七罪スキルの権限を渡してコントロール出来る。


 暴喰獣のコントロール権限も渡せるので、沢山出した時に近くの敵を攻撃しろなんて雑な指示ではなく、個別に細かな指示も出せるようになるのが嬉しい。


 現在出来るのはこんな感じだが、私がほかの七罪を取り込めば出来ることも増えるとか?


 そんな予定は全くないけどな! フリじゃないぞ!


「と、そんな感じかな。ちなみに名前はベルフェゴールとアケディアから取ってベルディアにしました」


「軽い。少し前に戦ってる……というか、精神空間の事とは言え、何度も殺されてたのにハクアはそれでいいの?」


「……良いも何も私のスキルの一部だし、何より記憶があるって言っても、そこに感情が乗ってる訳じゃなくて、本や映像で見た事あるみたいな感じらしいからなぁ。そして精神空間の事は別に?」


「別にって……」


「ちなみにどんだけ殺られたんっすか?」


「……三万四千五百四十二回です」


 うん。皆してドン引きするのやめようか? どちらかと言うと我被害者ぞ?


 拉致されて、里の対立やら陰謀に巻き込まれて、挙句の果てに無理矢理邪神との戦闘フェーズに突入とか……あれ? マジで私ただの被害者なのでは?


「私はマイロードに感謝しかありません。邪神としての力はかなり失いましたが、その代わり七罪の呪縛から解放して頂きましたので」


 ドン引きしている皆にベルディアが語る。


 ちなみにマイロードとは私の事らしい。


「じゃあハクアに逆らう気はないと?」


「はい。そもそも私は既にマイロードの一部。マイロードが気に食わなければすぐに消し去る事が出来ます……それに───もう戦いたくないし」


 ボソリともう戦いたくないしとか言いやがったぞコイツ。


 しかもなんで皆その言葉に一番納得するのかなぁ!?


「まっ、ハクアだしね。ハクアが問題ないならわたしも問題ないや」


「それで良いんっすかミコト様?」


「うん。だって今回一番の功労者が気にしないって言ってるのに、救われた側のわたし達がとやかく言う事は何もないよ」


 うん。出来ればその言葉はドン引きする前に聞きたかったな。言わんけど。


 多少思うところはあってもミコトの言葉に全員納得したようだ。


 解せぬ。私の時はなんで納得しないでドン引きした?


「まあいいや。んで、これがどうかしたのベルディア」


「はい。これは私の力の結晶です」


「ああ、なるほど」


 つまりクーの時と同じだったと言う事か。それなら私が勝てたのにも納得出来る。


「えっ!? なんでそれだけで納得できるの!? 全然わかんないんだけど」


「多分だけど封印機構にこいつの力を吸い取るのが組み込まれてたんだと思うよ。その証拠にアカルフェルも完全に体が変化してなかったし」


 アカルフェルは邪神の力を使っていても肉体を留めていた。


 でもはっきり言って、力を受け止める器がないのにそれはおかしい。


 だが、山に封印されていた力がほとんどガス欠状態だったと言うなら、それも頷けるのだ。


「なるほど、そうだったんっすね」


「これを手に入れればよりマイロードのお力になれると思います」


 ベルディアの言葉にテア達を見ると頷いている。


 どうやら本当のようだ。


「ほう。ならばそれに決めるか?」


「いや、私はこれを選ばんが?」


「えっ!? なんで!? 選ぶ流れじゃないの!?」


「いやいや。これは選ぶんじゃなくて、返してもらうだけ」


「……は? 何を言っている?」


 私の言葉をようやく呑み込んだ龍神がちょっと殺気を滲ませながら問う。


「そっちこそ何言ってんの? これは元々ベルディアの力で本人の物。たまたまそれを拾ってこんな所に置いてるからって、落とし主が見つかっても返さないつもり? うわー、ないわー、龍神セコイわー」


「くっ……この……」


「龍神様。ハクアちゃんに口で勝つのは難しいと思いますよ」


「くっ…………も、持っていけ」


「あざーす。後で渡すねベルディア」


「はい。ありがとうございますマイロード」


「ハクアはもうやりたい放題だね」


「いやいや、理性的に生きてますよ?」


「で、結局なんにするの?」


 うーん。やっぱり気になってるのはネタ系なんだよなぁ。


「その顔……ネタ系に行こうとしてない? もうちょっとまともなの選びなよ。魔導書とかはどう?」


「あっ、その辺はわかったから良いや」


「ん? わかったって?」


 ミコト達は首を傾げるが、龍神は凄く苦々しい顔をしているが、それは無視だ。


 見れば載っている魔法やスキルを覚えられる魔導書は、フィクションでよくあるように一度見ると内容が消え、その効果が無くなってしまう。


 だが、アーカーシャに接続出来るようになった今の私なら、中を見るまでもなく一度解析してしまえば、効果をそのままに魔法やスキルだけを抜き取る事が出来るのだ。


 と、言うわけでここにある魔導書に、ちょっと面白い効果の魔道具も全て片っ端から解析して、すでに修得&作る事が出来るようになっている。


 ちなみにさっきから龍神の当たりが強いのはそれがバレているからである。


 とはいえ、物を一つしか持ち出すなとは言われたが、知識を得て帰る分には言及されていないのでノーカンだ。


 何よりわかっていても証拠がないので言い逃れはいくらでも出来る。


 龍神もだから何も言えないのだ。


 ───とはいえ。


「そろそろそのくらいにしておけよ」


 青筋立てて殺気を撒き散らす龍神の我慢が限界っぽいので、私は大人しく一日一回ランダムにスープが出てくる不思議鍋を選んだ。


 ランダム系の魔道具だけは解析しても同じ効果が作れなそうだからね。


 美味しいスープは飲めるし、ランダム効果の魔道具は研究のしがいもあるし、個人的に満足の出来るものだったりする。


 うん。余は満足じゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る