第643話はい。これでもです

「ほほう。これはこれはなかなかですな!」


「テンション高いねぇーハクア」


「そりゃそうでしょ。こんな所来ればね」


 現在私は面倒なイベントを終え、いつものメンバーに龍神を加え龍族秘蔵の宝物殿にやって来た。


 どこを見回してもレア物、金目の物ばかりの状況はテンションが上がって当然。


「ん? どうかした?」


 何やらミコトが不思議そうな顔をして私を見ているので聞いてみる。


「あっ、ううん。ただハクアってそんな金目の物? に興味あったんだなって思って」


「ふむ……まあ、ぶっちゃけ金銭的価値にそこまで拘りはないよ」


 ただ金銭的価値というのはある意味で共通の価値があると言うことなのだ。


 これは地球における貨幣価値と一緒。

 

 ただの紙切れが、金と言う名前で取り引き材料になるのは、全員がそれを価値のあるものだと認めているからにほかならない。


 そう言う意味では、万人が金銭的価値があると認める物はある程度の指標にもなるのだ。


 まあ、言うて今の私は金銭に関しては問題がないのでそこまで価値は感じていないが。


 使えない、使わせて貰えないだけでお金は溜まってるし、持っている。


 ちゃんとした用途なら使わせても貰えるから、逆に私は溜め込んだお金を使うべきなのだ。


 誰か一人が溜め込むだけじゃ経済が滞るからね。お金は使って循環させるのが正しいのだ。


 何が言いたいかと言えばいい事"にも"お金を使ってるんだから、お金の使い道とかいちいち聞かなくてもいいんだよ〜と言うね。


「そう言う所ですよ白亜さん」


「地の文へのツッコミはおやめ下さい。まあ、目的は面白そうな物か、役に立ちそうな物、なければ金目の物って所かな」


 テアからのツッコミに答えつつ、本日の目的を明確にする。


 個人的にはユエと違って装備品という括りがないから、戦闘面で補助出来る道具役に立つ系よりも、一発芸的な物でも良いから面白い物とかの方が好みである。


 まあ、言う事が真逆になるけど、そう言うネタ系の物って価値が低かったりするのだが、個人的に満足出来れば一番良い。


「ちなみに」


「なんだ?」


「さっき貰った亜空間リングに突っ込んで一つ持ち出しましたはあり?」


「ありな訳がないだろう。すぐにルールの穴を突こうとするな愚か者」


 一応確認の為に聞いてみたが龍神に即却下された。


「チッ、ケチ癖ぇ」


「貴様……」


「まあいいや。それより数がすげーけど目録みたいのないの? 流石に半日では見て回れんのだが?」


「ふっ、作ろうとしたが面倒になってやめた」


「……ちなみに宝物殿の開放期間は?」


「言っただろう? 今日だけだ」


 この野郎ニヤニヤと、さては渡すのが本当は嫌だなこのドケチ神。


「はぁ。じゃあいいや。テア」


「なんでしょう?」


「目録」


「はい。どうぞ」


「ちょっと待て!?」


「あん?」


 龍神が目録を用意しないから、代わりにテアから目録を受け取ると何故か龍神が慌てて止めてきた。


「何故お前がここの目録を持ってる? それに何故お前はそれを普通に受け取っているのだ!?」


「だってメイドだし」


「メイドですので」


「だからなんでだ!?」


 龍神の疑問にテアと視線を合わせ首を傾げながら質問に答えるが、何やらその答えはお気に召さないようだ。


「父上」


「なんだミコト?」


「これくらいでいちいち驚いていたら身が持ちませんよ。ハクアと付き合ってたらこれくらいは普通の事です」


「……これがか?」


「はい。これでもです」


「「…………」」


「はぁ〜〜、もういい好きにしろ」


 なんかクソデカため息吐かれたけどまあいいや。


「さてさて、まずはユエのからだな。武器って言ってたけど装備ならなんでも良いんでしょ?」


「それぐらいの変更でとやかくは言わん」

 

「おっ、ナイスー。んじゃ、ユエはなんか希望ある?」


「あるじの選んでくれるものならなんでも嬉しい……けど、もっとあるじの役に立てるようになりたい」


 私の言葉にウーンと悩んだユエが出した答えはそんな可愛い一言だった。


「じゃあなんにしよっかー」


 頭を撫でながらじっくりと選ぶ。


「どのような系統をお探しですか?」


「やっぱ基本は長所を伸ばすか、短所を補うかだよね」


 ユエは防御を無視して攻撃が出来るシンプルな強みがある。


 それを伸ばす為に効果もまた私のように奇をてらったものではなく、シンプルなほど強みを発揮すると思う。


 ───と、言うわけで選んだのはこれ。


「あるじ、これ……なに?」


「これはね。心眼の帯って名前の眼帯で、これを着けると動体視力が上がって、脳の処理速度も増すんだよ」


「……あるじ。難しい」


「目が良くなる。目が良くなるから相手の動きがわかって、攻撃も当てやすいし、攻撃を避けやすくもなる」


「ん、わかった」


「更にポイント高いのは、これを着けるとウチには居ない眼帯キャラとして確立される事だね。黒髪和風眼帯美少女とか最強じゃね?」


「……ハクア。最後で台無しだよ」


 えっ、何故?


 人数多くなってくると一目で分かる個性とかすごい大事よ?


「そうですね描き分けもしやすくなりますし」


「ほら〜」


「いや、何がほら〜なのはか知らないけど」


「まあまあ、とりあえず着けてみよっか?」


「ん……ちゃんと見える」


「うん。眼帯ではあるけどそれ自体には透視効果があって視界を塞がない仕様らしい。で、その眼帯に魔力を流すと」


「ん。なんかゆっくり見える」


「そうそう。そうやってオンオフが出来るから、普段は普通に過ごせるし、それに慣れたい時は自由に訓練も出来る」


「確かに、いきなりゆっくり見えるようになっても対応するの難しそうっすもんね」


 ゆっくり動く世界の中で自分がいつも通り動けるわけでない。


 それには慣れが必要なので訓練は重要なのだ。


「ん、あるじが選んでくれたモノだから頑張る」


「うんうん。眼帯もいい感じに似合ってて超可愛いぜい」


「あるじ。ありがとう」


「どういたしまして」


「じゃあ次はハクアの番だね。さっきは色々言ってたけど結局どんなのがいいの?」


「そうさな〜」


 目録に目を通しながら、同時に実際に実物も見て回る。


 個人的には魔力を流すと一日一回、ランダムに色んなスープが湧き出る鍋なんか面白い。


 他にもいらない素材を入れると別の物に変換してくれる壺、逆に一日一回なんかランダムな素材を吐き出す壺、色んな薬が出てくる瓶に色んな毒が出てくる瓶なんてものもある。


「いや、なんでキワモノばっか行こうとしてるんっすか」


「でもなんかすごくハクアらしくはあるの」


「だってランダムとかって部分に凄く惹かれる」


 そう言うと何故か皆に呆れられた。解せぬ。


「これはどう?」


「それはいいや」


 シフィーが選んだのは錬金空間という魔道具。


 効果は簡単、普通は専用の設備がないと出来ない錬金術を、その魔道具の中で作ることが出来るものだ。


 道具を空間内に仕舞え、薬剤は魔力で代用、簡単に言えば無菌室のような調えた場でしか出来ない錬金術を、外で行える便利な魔道具ではある。


 あるのだが……ぶっちゃけ解析したら私の持つスキルを組み合わせれば同じ事が出来る事が判明。


 なのでさっきまでは良い物だったが、今ちょうどいらない物になってしまったのだ。合掌。


 そうやって見て回る中、私はある一つの真っ黒な宝玉の前で立ち止まった。

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