舞華は助けを求める

『十二月十一日。

 今日はとても驚く出来事がありました。長年親友だと思っていた藤花に告白されたのです。

 私も藤花のことは好きです。ただ、彼女の告げた『好き』と私の彼女に対する『好き』は、言葉こそ同じですが意味は全く違うもの。

 それに私にはすでに、この身を捧げると誓った愛しのお兄様がいらっしゃいます。

 だから藤花の想いを受け入れることはできません。藤花の告白は丁重にお断りさせていただきました。

 できるだけ彼女の心を傷付けないように言葉は選んだつもりですが、藤花は私の返事を聞くと涙を流しながらその場を後にしました。

 きっと傷付けてしまったのでしょう。もしかしたら嫌われてしまったかもしれません。もう親友には戻れないかもしれません。

 そう考えると、とても辛いです。藤花は家族を除けば、唯一本音で話すことができた数少ない友人でしたから。

 ですが、後悔はありません。もしやり直しができたとしても、私はまた同じ返事をするでしょう。

 だから、この胸を苛む痛みもじきに収まるはずです。そうに決まっています。』


『十二月十二日。

 今日学校に行くと、藤花は欠席でした。担任の先生に欠席の理由を訊ねると、風邪とのこと。

 本当に風邪なのでしょうか? もしかしたら、私に会うのが嫌で仮病を使ったのかもしれません。

 昨日のことを考えれば、何もおかしいことではありません。正直、私も今日藤花と会ったらどんな顔をすればいいのか困っていましたから。

 ですが、心配です。藤花を傷付けた張本人である私がこんなことを考えるのは、許されないことかもしれませんが、それでも藤花には早く立ち直ってほしいです。

 そして叶うことなら、もう一度前みたいな関係に戻りたいです。』


『十二月十三日。

 今日も藤花は休みでした。あと一週間もすれば冬休みに入ります。

 まさか、今年はもう来ないつもりなのでしょうか? それほどまでに、藤花の心は傷付いてしまったのでしょうか?

 心配です。とても心配です。今どうしているのか、気になります。

 だから今日は電話することにしました。あんなことがあった後なので躊躇していましたが、最早そんなことをしている場合ではありません。

 けれど藤花が電話に出ることはありませんでした。メールもダメです。

 どんな形でもいいから、せめて連絡くらいはほしいです。』


『十二月十四日。

 今日も藤花は来ませんでした。流石にクラスの皆さんも藤花のことを心配していました。

 なので、そのことをメールで藤花に伝えましたが返事はありません。もう私とはメールのやり取りもしたくないということでしょうか?

 だとしたら辛いです。とても辛いです。』


『十二月十五日。

 今日も藤花は来ませんでした。

 最近、藤花がいないことを当たり前に感じ始めている自分がいることに気付いてしまいました。

 大事な友達がいないことを当たり前に感じてしまうなんて、私は自分で自分が嫌になってしまいそうです。

 自分のことを本当に嫌いになってしまう前に、藤花には学校に来てほしいです。』


『十二月十八日。

 私はいったいどうしてしまったのでしょう?

 なぜか藤花のことを考えるだけで、胸が締め付けられるように痛みます。涙が溢れてしまいます。

 あの時藤花の告白を拒絶したことは間違いではないはずなのに、もっと上手くやれたのではないかということばかり考えてしまいます。

 もちろん、今更そんなことを考えても意味がないのは理解しています。でも、それでも考えずにはいられないのです。

 もう私はどうすればいいのか分かりません。こういった時、お兄様ならどうするのでしょうか?

 教えてください、助けてください、お兄様。』






「…………」


 もうすっかり習慣になってしまった、早朝の舞華の日記の盗み見。


 ここ最近の舞華の日記は、糸島に関することばかりだった。俺のことはほとんど書かれていない。


 それにあいつの弱音なんて初めてかもしれない。少なくとも十年前初めて会った時から、舞華が弱音を吐いた姿なんて見たことがなかった。


 それほどまでに、糸島とのことは舞華にとってもショックだったのだろう。


 ……俺があの時糸島を止めていれば、こんなことにはならなかったのだろうか?


 今更ながら後悔の念を抱いてしまう。だが嘆いても何も始まらない。考えるべきはこれからのこと。


 今回の件は俺にも責任がある。だから俺は二人のためにも動かなければいけない。


 そして何より俺は舞華の、


「――兄貴だからな」

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