義妹の日記その2

『七月一日。

 今日はお兄様の教室の近くを通る予定があったので、コッソリお兄様の様子を確認しました。

 お兄様はあまり社交的な性格ではないのでイジめられてないか心配でしたが、ちゃんと友人と談笑している様子を見て安心しました。

 ただ一つ気になったことがあるとすれば、その友人の中に女性がいたことでしょうか。

 私というものがありながら、なぜ女性とお話ししているのでしょう? 意味が分かりません。だって私がいるんですよ? 他の女性とは触れ合う必要も、言葉を交わす必要もありませんよね?

 これは減点ものです。

 残り九十八点』


 怖い怖い怖い怖い! 何これ!? 何なのこれ!? 最早ただのサイコパスじゃん! ただのホラーじゃん!


 あと減点って何だ? この点数がゼロになったら、いったい俺の身に何が起こるんだ!?


 考えてみるが答えは出ない。仕方ないので、この問題は一時保留。日記の続きを読もう。


『七月七日。

 今日は七夕。織姫と彦星が再会を許された日であると同時に、私の誕生日でもあります。

 この日は毎年、お兄様が美味しい夕食を作ってくれています。

 普段酷いことばかりを言ってる私を祝ってくれるなんて、お兄様は本当に素敵です。

 家に帰ると例年通り、お兄様が豪華な料理と共にわたしを出迎えてくれました。

 お義父さんとお母さんは仕事で海外にいるため、二人きりの誕生日ですが問題ありません。私はお兄様がいてくれれば、それだけで満足です。

 食事を終えた後、お兄様が私にプレゼントをくれました。中身はハートのネックレス。

 お兄様のセンスは壊滅的でしたが、それでも舞華は嬉しいです。だってお兄様がくれたのですから。せっかくもらったので、学生カバンにでも付けようと思います。

 残り一万九十八点』


 俺がやったプレゼント……喜んでくれてたのか。


 思わずニヤけてしまう。


 渡した時『美味しい料理を作れるとはいえ、所詮兄さんは兄さんですね。今時ハートのネックレスなんて、小学生でも選びませんよ? 兄さん、美的感覚は大丈夫ですか?』なんて言われたから失敗したと思ってたから、喜んでくれてると分かって安心した。


 しかも大事にカバンに付けてくれてると分かって、涙が流れそうになった。


 自分があげたものを大切に扱ってくれるのは嬉しいものだ。


 そこから先の日記は、またしばらくの間何気ない日常を綴ったものだったが、夏休み明けから数日後に変化が現れた。


『九月十四日。

 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない――』


「ひいいいいいいいい!」


 恐怖のあまり、悲鳴をあげながら日記を壁に叩きつけてしまう。


 もう限界だ。こんなの読んでたらこっちの気がおかしくなってしまう。読まなかったことにして、学校に行きたい。


 しかしここで読むのをやめるわけにはいかない。何が原因でこんなクレイジーサイコパスな文面になったのか、しっかりと確認する必要がある。


 確認しないと、怖くて今後の義妹との生活に支障をきたしてしまう。恐ろしいが覚悟を決めよう。


 とりあえず五ページに渡って書かれた『許せない』は無視して、本題が書かれてると思しきページを読む。


『今日、許し難い現場を目撃してしまいました。

 あれは新生徒会の役員同士での顔合わせを終えた帰りのことです。

 帰りの道でお兄様を見かけたので声をかけようとしました。しかし私はそこで目撃してしまったのです。お兄様と並んで歩く女性を。

 いったいどういうことでしょうか? 意味が分かりません。お兄様には私さえいればいいではありませんか。

 しかも女性の方は、以前お兄様とお話ししていたクラスメイト。お兄様と同じクラスになれただけでも幸運なのに、それ以上を求めるなんてありえません。恥というものを知らないのでしょうか?

 これは減点せざるを得ません。

 残り九十八点』


 一気に一万点持っていかれた。点数で表してるおかげで、どれくらい怒ってるのかがよく分かる。


 それにしても、別に俺は悪いことをしたわけではないのに何て理不尽なんだ。さっきとは別の意味で涙が溢れそうだ。


 昔親父が女は理不尽な生き物だと言ってたが、こういうことだったのか……。


 高二の秋にして父親の言葉の意味を知るのだった。


 その後も昨日の日付の分まで日記を確認したが、特に問題はなかった。


「それにしても……」


 日記を通してではあるが初めて舞華の本音に触れた。しかし内容は病的なまでのホラー。というか、最早舞華は病んでるといってもいいレベルだ。そのくせ俺のことは大好きときている。


 ……もしや、これが世に言うヤンデレなのか?


 仮に舞華がヤンデレだとしたら、どうしたものか? 


 そんなことを考えながら視線を日記から、近くにあった舞華の机に移す。


「あ……!」


 そこで、机の上にある時計の時間が八時十分を指してることに気が付いた。


「ヤ、ヤバい……!」


 家から学校まで歩いて二十分。ホームルームが始まるのは、八時半からだ。今から家を出るとなると、走って何とかギリギリだ。


 俺は日記を元の場所に戻し、大急ぎで仕度を整えて家を出た。

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