第9話

 朝になり、目覚ましとともに少女がベッドから起き上がりました。そして、机の上にある自分のスケッチブックを手に取り、首をかしげました。

「誰だ、これ」

 彼女は自分で描いた私の肖像画を覚えていませんでした。それで良いのです。私が忘れさせたのですから。けれど、彼女が私を忘れようと、私は少女のことを忘れることはないでしょう。そして、ずっと見守り続けます。彼女がまた躓いたときも、成功したときも、あなたならば大丈夫だと信じながら。


「いってきまーす」

 少女はそう言って元気よく玄関から出て、学校に向かいます。

「まぶっしー」

 彼女はそう言って朝日を片手で遮り、目を細めました。そして、どうしたことでしょう。朝日に霞んで見えないはずの私に向かって微笑みかけたのです。そして、なんでもないように顔を前に向け、歩き出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月だけが知っている 音水薫 @k-otomiju

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ